内容説明
トップの座を目前に住友を去った著名な経済人にして一代の歌人川田順と、短歌の弟子である若き京大教授夫人の灼熱の恋…。戦後の日本を背景に、二人の恋の道程を、繊細に、端正に、香り高く描く、昭和を代表する愛の物語。第三十回谷崎潤一郎賞受賞作。
感想・レビュー
※以下の感想・レビューは、株式会社ドワンゴの提供する「読書メーター」によるものです。
じいじ
80
企業トップの座を捨てて歌人の道を選んだ川田と大学教授の妻祥子の静謐な中、心は燃えるような不倫の恋を描いた物語。舞台は戦後の復興に向かう京都。27歳の年の差を問題にしない、味わい深い大人の恋に感動しました。谷崎潤一郎賞受賞に納得。祥子の暴力も振う夫と川田との狭間で触れ動く心情が愛おしく虚しい。離婚も子供のことを考えると踏み切れない辛さ。互いに相手の立場を思いやる夫婦愛に胸を打たれました。非難を乗り越えた二人の幸せが嬉しい。花鳥風月の情景描写が素敵だ。私に短歌の素養があれば、もっと深く理解できたと悔やむ。2016/05/22
練りようかん
13
谷崎賞きっかけ。自分を見下す夫との家庭生活を長く続けた女性と、実業家と歌人のふたつの顔を持つ男性の恋。物語のはじめは実ったところからだが、平静は遠いと感じさせ、幸せを掴んでほしいと応援したくなる筆だった。周囲の名で実在した人だと気付くのだけれど、存じ上げないため自殺未遂や気分のアップダウンに冷や冷や。個々の人生を揺るがした終戦と、関わった人たちの生命の終わりに、死の誘惑から解放されたように思えた男性の終わりが上手く乗って印象的。谷崎が時勢を見て恋愛相談の助言をしていたのがファンとしては嬉しい、面白かった。2025/10/15
しんこい
10
作者初。老いらくの恋という言葉は知っていたが、これがその話とは思わず、終戦直後に子供もおいて恋におちるのは相当困難があるな、と思うが、不思議とすがすがしい風情。2018/01/01
Mark.jr
5
著名な実業家にして名うての歌人でもあった川田順とその短歌の教え子であった京大教授夫人の禁じられた恋(要するに不倫)を描いた恋愛小説です。発表された90年代ながらも、小津安二郎、成瀬巳喜男のような日本映画の上質な雰囲気を小説上に甦らせてているのも何気に驚異ですが、一番驚いたのはこれが全部本当にあった話だということですよ...(不勉強ながら全然知らなかったですが)。2023/12/08
yasumiha
5
戦前、住友本社のトップ総理事の座を嘱望されたが、軍への迎合の姿勢を卑俗に感じ、また日本の美意識、やまとの心を後世に伝えるため、54歳で辞した歌人川田順。その後、物静かで温順しいところと活気があって、無邪気な性格が同居する人妻森祥子と出会う。27歳の年の差や世間の非難を真向うから受けても、挫けず一緒になった純粋な愛を静謐で美しい文体で描写している。度々、疎水沿いの哲学の小径を歩く二人に、控え目で愛情が息づいく描写に美しくうっとりする。京都を舞台にした"老いらくの恋"の名作である。2022/09/18
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