内容説明
現代では、人と人との繋がりが希薄になってしまった。人と人との間には、安全という名の距離ばかりが広がった。しかしその平和な時代に、人はどれだけ残酷な涙を流すことが出来るのか。それを1千年前に見据えてしまった女性がいる。その物語をもう一度、“豊か”と言われる時代に再現。最も古い近代恋愛小説の古典。
感想・レビュー
※以下の感想・レビューは、株式会社ブックウォーカーの提供する「読書メーター」によるものです。
かふ
16
天皇が太陽ならば光源氏は月。さらにその天皇の妻(義理の母)を愛してしまったのだから、欲望のはけ口は他にむかうしかなく、それが月影となって当時の女たちを照らす物語だったのが、月そのものの影の部分、つまり暗黒光源氏として描いている。闇堕ちしたダースベイダーかと思ってしまった。「若菜」でも「末摘花」でも本人は動かない。自分の思い(欲望)を伝えるだけ。それに右往左往する惟光だったり大輔の命婦だったりする。従者は常識人であるが王の命令は絶対であるわけでその非常識な命令とのやり取りが喜劇になっているから面白い。2024/02/25
LUNE MER
14
窯変ならでは、と特に強く感じたのは「末摘花」。「光る源氏の物語」でも述べられていた「『末摘花』のヒロインは姫君ではなく、男女として光源氏と微妙な距離感にある大輔の命婦である」という視点でリライトされており、個人的にはこの帖の新たな魅力を味わえた。光源氏と命婦の互いに気の置けないやり取りと、命婦の想いに気づけていない源氏の鈍さはドラマを観ているような感覚で、何より、命婦がこれまで読んだどの訳よりも魅力的。彼女がこの帖にしか登場しないのが勿体ないくらい。幸せな一生を送っていて欲しい。2021/07/12
NY
11
夕顔との出会い以来、様々な女たちとの関係に苦闘する光源氏はあたかも男の弱さを陳列したショーケースのようだ。それは恐らく「孤独」や「執着」に由来するものだろうが、簡単にそう言い切ってよいかは正直よくわからない。ところで「女の沈黙は男に対する最大の復讐」「女は悩んで悩まない。ただ蓋をするだけだ」など、随所に、二十年前につけた鉛筆の印があった。実体験の心当たりは何もないので、多分、当時の自分は、勝手に疑似体験というか、何となく恋愛がわかったフリをしたかったのだろう…やれやれ。2020/02/11
Jack Amano
5
「若紫・末摘花・紅葉賀」。義理とはいえ、自分の父親の妻を懐妊させてしまい、自分の母親似の美しい少女を引き取り後見人になる。かなりのマザコン。帝の子という地位・権力・富を有し、かつ美しい。これで傲慢にならない方がおかしいくらい。傲慢ではないが、かなりの身勝手でわがまま。それでも、これだけ揃っていると、羨ましいを通り越して、憧れのようになる。だから面白いのだと思って読んでいる。2024/02/10
コトノハ小舟
3
光源氏ってずいぶんなエゴイスト!自分は美しい、自分は帝に寵愛されている、ゆえに何をしても許される、と思っている。美は力だ!と言い放つ。そして、己が内面の虚ろを埋めるために、次から次へと女を渡り歩く。その内面が赤裸々に語られつつ展開していく。濃厚にして絢爛豪華ではあるが、全14巻読み通すのは、私にはキツイかな。2020/10/28