内容説明
当代きっての国語学者と小説家が、全巻を縦横無尽に読み解いて、それぞれの立場から丁々発止と意見を闘わせた、斬新で画期的な『源氏』論。時に大胆な歯切れのいい現代語訳が、難解な大古典から豊潤な恋愛小説の世界へと読者を誘い込む。
目次
「桐壼」
「帚木」「空蝉」「夕顔」
「若紫」
「末摘花」「紅葉賀」「花宴」
「葵」
「賢木」
「花散里」「須磨」「明石」
「澪標」「絵合」「松風」「薄雲」「朝顔」「少女」
「蓬生」「関屋」「玉鬘」「初音」「胡蝶」「蛍」「常夏」「篝火」「野分」「行幸」「藤袴」「真木柱」
「梅枝」「藤裏葉」
感想・レビュー
※以下の感想・レビューは、株式会社ブックウォーカーの提供する「読書メーター」によるものです。
アルピニア
57
大野氏も丸谷氏もとにかく源氏物語に惚れ込んでいて楽しそうに論じている。よく言われるa系とb系の説はもちろん、ドラマティック・アイロニーの効果なども触れられていて、再読がとても楽しみになる。心に残ったところは「大文学というのは多層的な読者を引き受けることのできる文学(p280) つまり源氏物語の凄さは原文が読めて漢文や和歌の知識があればより深く内容を読み取れるが、そうでなくても十分面白い。そして読者を惹きつける理由のひとつは解釈がいくらでもできるということ(p276)」さまざまな訳がでていることも肯ける。→2018/02/05
やいっち
48
実に中身が濃い。物語としての面白さもさることながら、紫式部の本書を書く上での自負心の凄さを本書で教えられた。日本には、飛鳥時代から平安時代前期にかけての6つの史書が残されていて、これを六国史と読んでいる。式部は、これらの中でも有名だし重要な史書である『日本書紀』を鼻で笑っているという。あんなものは、(式部はこういう表現はしていないが)骨皮筋衛門に過ぎないという。中身、つまり、人間がまるで描かれていないからだ。ある意味、六国史に次ぐ重要な、まさに本物の史書だという自負心が式部にはあったらしい。2019/05/01
syota
34
源氏物語に造詣の深い二人が54帖を一つ一つ取り上げ意見を交わしている。丸谷才一氏が作家・文芸評論家の視点で鋭い考察を述べれば、国語学者の大野普氏は原文を詳細に分析した専門的な知見を披瀝し、結果として多面的で独創的な源氏物語論が展開されている。 ありがちな「私はこう感じる」という感想レベルの話ではなく、しっかりした論拠に基づいた強固な推論の連続で、読んでいて非常に知的興味を掻き立てられる。1990年芸術選奨文部大臣賞受賞。2020/07/31
やまはるか
30
共著者の対談形式、要所で原典と訳文を引用する。光る源氏と恋人たちの逢瀬で、曖昧な場面では、男女の事実のあったかを二人が論ずる。斎宮として伊勢に下る娘とともに京を去る決意をした六条御息所のもとで一夜を明かした源氏。原典は「思ほし残すことなき御中らいに聞えし給ふ事どもまねびやらむ方なし。やうやう明けゆく空のけしきことさらに作り出でたらむようなり」訳は「思い残すこともないまで睦みあうお二人がどんなことを語り合ったか、伝へるすぺもないのが惜しまれる」体温が今に伝わるような描写であることが訳を読んではじめて判る。2024/03/07
野の花
25
二人の討論による解説。話し言葉なので分かりやすい。ここは良い、ここは悪いとはっきりしているのが良い。源氏物語をa系列とb系列に分けて説明。中国の歴史史書の紀と伝に当たるもの。源氏物語の理解に深みが増す。今まで色々な訳者で読んでいるが知らないエピソードなども出てきて面白かった。2018/08/15