内容説明
ペリー艦隊来航時、主席通詞としての重責を果たしながら、思いもかけぬ罪に問われて入牢すること四年余。その後、日本初の本格的な英和辞書「英和対訳袖珍辞書」を編纂した堀達之助。歴史の大転換期を生きた彼の劇的な生涯を通して、激動する時代の日本と日本人の姿を克明に描き尽くした雄編。
感想・レビュー
※以下の感想・レビューは、株式会社ブックウォーカーの提供する「読書メーター」によるものです。
ヴェネツィア
396
嘉永6(1853)年のペリー来航から日清戦争の始まり頃までを、通詞として一生を送った堀達之助の生涯を軸として描き出す。堀達之助は、日本最初の本格的英和辞典とされる『英和対訳袖珍辞書』をほとんど独力で編纂した人物。作中では折々の堀の心情こそ描かれるが、それもいたって控え目なものであり、もっぱらこの激動の時代そのものと、そこに生きた人々を淡々とした筆致で描いて行く。堀の心情表現など、フィクションにわたる部分もあるだろうが、概ねは史実を踏まえ抑制された客観的な文体で語られる、まことに吉村昭らしい小説である。2022/08/25
kawa
48
黒船来航時の最初の交渉でオランダ語通訳を務めた堀辰之助を主人公の歴史小説。幕末の彼の役人人生はこの時をピークに、ドイツ商人のリュードルフに関わる微罪(今の感覚だが)で4年余りの入牢、日本初の英和辞書刊行、函館通詞での苦労と激しい浮き沈みに見回れる。タイトル「黒船」後の方が読み応えあり。特に函館でのイギリス領事館員による「アイヌ墓地盗掘事件」なんて初知り。函館奉行の小出大和守の追及が印象的。先週、その舞台となった五稜郭・函館奉行所(復元)を訪ねていたのも偶然とは言えびっくり。2023/07/06
mondo
43
吉村昭さんの「黒船」は、黒船が直接のテーマではなく、主人公の通詞堀辰之助に焦点を当て、その生涯を追いながら、幕末から幕府瓦解、維新への波を描いた歴史小説。時代に翻弄された堀辰之助の苦悩と悲哀が描かれていて、現代社会にも通じる世界を感じた。「夜明けの雷鳴」では旧幕府軍の側から見た箱館戦争しかわからなかったが、「黒船」を読んで新政府軍の状況を少し理解することができた。今度は「海の祭礼」を再読しようと思う。ちゃま坊さんが言われるように中島三郎助との因縁を感じた。箱館で再会させたかった。2020/10/15
たぬ
39
☆4 ペリー来航時に主席通詞を務めた堀達之助が主人公。ちょっとした出来心が裏目に出てブタ箱にぶち込まれ「死刑になるんじゃ」と怯える日々があったり日本初の英和辞書をまとめ上げるもそれを自分の知らないところでこねくり回されて不快に思ったり。踏んだり蹴ったりだなあ。異国人を見て逃げ惑う庶民って現代の感覚で言えばわああああああ地球外生命体が来たァァァァ的な? そりゃ怖いわな。2022/10/24
ちゃま坊
33
佐々木譲「くろふね」では与力中島三郎助の視点だったが、こちらはその時の通詞堀達之助の視点。重なる話として「海の祭礼」の通詞森山栄之助が出てくる。これからは英語の時代がやってくるのだがいずれもその先駆け。英会話の森山と英和辞書の堀と言ったところか。小伝馬町の牢内の場面は高野長英や吉田松陰を思い出す。五稜郭で新政府の通詞をしていた時に箱館戦争があり、旧幕府軍の中島三郎助との因縁を感じる。2020/10/03
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