内容説明
小説家にとっての憇いとは何だろう。時には横ばいしない蟹のように仕事の日常を逸脱してみたい。だが、少年時代の記憶も旅の光景も酒場での会話も、いつかどこかで作品に結びつく。小説家であることからのがれることは難しい―。真摯な作家の静謐でユーモラスなエッセイ集。
目次
土竜のつぶやき
蟹の縦ばい
原稿用紙を前に…
味のある風景
逢かな日々
亭主の素顔
感想・レビュー
※以下の感想・レビューは、株式会社ブックウォーカーの提供する「読書メーター」によるものです。
いつでも母さん
132
読み友さんのレビューに誘われて。吉村作家の『昭和』満載。私が産まれる前の昭和もたっぷりあった。今なら顰蹙を買うのも沢山あるが、時代の流れを感じつつ私は楽しく読んだ。戦争があり、羆があり、病があり、小説家・吉村昭があり、家庭人・吉村昭があった。厳しく真面目で、だからこその面白味もあって丸ごと全部人間・吉村昭だった。2024/07/07
mondo
61
ほぼ、この何年間は趣味の読書と言えば吉村昭の著書に類するものだけを読んできた。そして、同書を読んだ方の感想文も読ませていただき、再び余韻に浸る気分を楽しんだ。これまで、単行本、文庫本合わせて約140冊読んだが、何が吉村昭の小説を読ませてきたのか、考えてみた。単に史実に忠実な記録小説の素晴らしさにとどまらず、そうした小説を書く吉村昭という人間に興味が湧き、もっと知りたいと思ったからだ。またそうした機会がエッセイを読むことで満たされるので、いつしか漁るように読んできたように思う。この「蟹の縦ばい」もその一つ。2024/01/08
Shoji
40
実に楽しいエッセイでした。今でいうSNSへのつぶやきのようなライトなものから、哲学的な意義さえ感じるこ難しいことまで。それでもまぁ、概して屈託のないお話が多かったです。良くありがちな、著者の価値観を読者に押し付けることもなく、すらすらと読めました。昭和時代、良き時代でした。2022/01/27
バイクやろうpart2
37
吉村昭さん作品19作目です。『蟹の縦ばい』タイトルからして、吉村さんのユーモアを感じつつ一頁触れた途端、めくる手が止まらなくなりました。車中、ずっとニヤニヤ、長編小説の作風から見える淡々と史実を伝える吉村さんが日常を通じ観える景色は、なんともユーモラス、でも、その中にキラリと風刺も入れて一節一節がまさにドラマでした。暖かい時間を頂きました。2024/06/11
kawa
36
敬愛する吉村氏の50歳、昭和50年前後に執筆のエッセイ集。ちょうど「冬の鷹」や「北天の星」のころ。自らの作品や人生、お酒とグルメ、家族のこと等々。400頁弱長尺、時間をかけてゆっくりと思うのだが、面白くて一日で読み終えてしまう。風貌から建設業者や警察官に間違えられたり、講演会場の係員と間違えた老婆から、トイレを問われ案内したところ「男の便所でねか」と怒られる氏が微笑ましい。20代の頃の結核、死を賭しての闘病が作家成功のきっかけとなったの言に励まされるのは私だけではないだろう。2024/11/18
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