出版社内容情報
美貌と才気に恵まれた盲目の地唄の師匠春琴。その弟子佐助は献身と愛ゆえに自らも盲目となる――代表作『春琴抄』と『吉野葛』を収録。〈解説〉河野多恵子
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感想・レビュー
※以下の感想・レビューは、株式会社ブックウォーカーの提供する「読書メーター」によるものです。
Shoji
62
『春琴抄』も『吉野葛』も再読である。読む年齢によって、物語は受け取り方が違って来る。『春琴抄』を以前読んだのは、いつ頃だったか、さっぱり忘れたが、昔、読んだ時は何だかざわざわした物を感じ、寒気がしたのを覚えている。ところが、今となっては平然として読むことができた。『吉野葛』は大変な勘違いをしていたことが今回分かった。奥吉野の歴史紀行ではなく、登場人物である友人津村について書きたかったのであろう。同じ物語でも、再読して新しい発見ができるのは本の魅力だと思う。2018/08/26
うた
10
春琴抄再読。この物語の艶かしさと複雑な構成をとりつつもまったく停滞のない流麗な文章。谷崎ほど日本語で書くことを意識し、かつ徹底した作家はいないだろう。2017/10/14
織沢
6
春琴抄を読むとなれば新潮文庫版を手にするのが普通であるような気がするが、私はへそ曲がりなので中公文庫版を読んだ。勿論選んだのはマイナーだからなどという詰まらない理由だけではなくて、河野多惠子の解説を読みたいというのもあった。春琴抄を真実の愛の物語とする言説があるらしい。大学の先輩は、この意見に全く反対であるらしい。実際読んでみると、確かに佐助の行動が段々怖くなってくる。解説では、春琴のサディズムは春琴の身内から発したもののように見えてしまうが、実際は佐助がサディストになるよう拵えているのだ、と言っている。2019/06/30
Sherlock Holmis
4
『春琴抄』は中高生の頃あらすじだけ知り、気味が悪い、怖い、と避けてしまっていたが(そのせいで谷崎との出会い自体が遅れたのは本当に残念)、いざ読んでみるとなぜだか佐助の行為に納得してしまう自分がおり、そこまで読者を連れていくフィクションの組み方の周到さを思い知るのである。『吉野葛』、思ってたのと少し雰囲気が違ったが、もうこれは舞台設定の勝利では?2018/12/25
Sherlock Holmis
3
春琴抄、作中に登場する偽書「鵙屋春琴伝」の、古い紙の匂いが伝わってきてしまうかのような文章。吉野葛、前読んだときより感じがよい。登場する奥吉野の古めかしい地名が今もことごとく残っているらしく感動。やはり上方文化には憧れる。2023/01/04