内容説明
昭和十一年二月二十六日、降りしきる雪を蹴って決行された青年将校たちのクーデターの結果は全員処刑により終った。本書は、多くの資料によって事件の経過を再現し、彼らが意図した「昭和維新」「尊王攘夷」の意味を探り、軍隊のもつ統帥権意識を解釈の軸として、昭和初期からの農村の疲弊に喘ぐ社会との反応、軍部の政治への結合と進出の過程を追う。なお、改版に当り「命令・服従」という日本軍隊の特性について増補・加筆する。
目次
序章 宇田川町の慰霊像
1 新聞記事にみる二・二六事件
2 二月二十六日朝まで
3 事件の収拾経過
4 二・二六事件にいたる諸事件
5 軍部内の対立と抗争
6 彼らをつき動かしたもの―昭和維新
7 特設軍法会議
8 処刑
感想・レビュー
※以下の感想・レビューは、株式会社ブックウォーカーの提供する「読書メーター」によるものです。
HANA
66
昭和維新、尊皇斬奸。雪の日に起きた二・二六事件は帝都を揺るがしたに止まらず戦前の暗い世相を代表するような大事件だが、それでいて何故か我々の中の昏いロマンティシズムに訴えかけてくるものがある。とはいえ知っているのは事件の大枠の流れだけで、至るまでの経緯を本書で知る事が出来たのは貴重。陸軍が出来た当初から内在してた矛盾が統帥権や天皇機関説に絡んで、この時期に噴き出たというイメージがあるなあ。戦前の日本に脈々と流れていた伏流水が噴出する様を見ているような。二・二六の大筋の流れを掴むには良い本だと思いました。2020/01/15
南北
48
岡田首相や高橋蔵相・渡辺教育総監などを襲撃した二・二六事件を明治憲法の枠内で上意下達の組織としての側面と戦闘集団としての側面の対立から解き明かそうとしているが、成功しているとは思えない。戦前の昭和と言っても1年ごとに状況が変化しているので、これをひとくくりにして天皇は現人神だったとしているのは雑な議論と言わざるを得ない。軍の上層部がなぜ反乱軍に共感していたのかもよくわからなかった。機会があればまた別な著作を読んでみたいと思う。2023/06/06
skunk_c
31
昭和史の大きなターニングポイントとなった事件をコンパクトに概説した書。特に事件の展開については要を得て明快な印象。また、統帥権の独立、天皇機関説とこの蹶起の関係、思想的矛盾など、端的に整理されており、さらに先立つ3月事件、10月事件、相沢事件などとの流れも略述ながら事件を位置づける助けとなっている。首謀者であった磯辺の真崎に対する事件後の指弾は悲痛さすら感じる。一方死刑となった北一輝や西田税の事件との直接的関連は薄く、軍法会議が結果を前提とした政治裁判であったとの指摘は、真崎の無罪とともに首肯できる。2018/02/22
まえぞう
21
もう50年以上前の本ですが、古さは感じません。大学生の頃に読んだかすかな記憶がありますが、今度読み直してみて、軍隊というものの中にある逃れられない現実を再認識しました。今のロシア軍を見ていても感じますが、一度スイッチが入ってしまうと理屈だけでは止められないという軍の性格を実感していかないといけないんだと思いました。2023/03/20
樋口佳之
21
真崎は当然予想される戒厳令下の軍事政権の首班を狙っていた。/天皇の軍隊という特殊性が、クーデターを狙う反乱の中にも露わになっていると感じました。2018/02/24