出版社内容情報
夫の三浦朱門が亡くなって2年が経つ。知り合いには「私は同じ家で、同じように暮らしております」といつも笑って答えている。見た目の生活は全く変わらないが、夫の死後飼い始めた2匹のネコだけが、家族の数を埋める大きな変化である――老後の日常と気構えを綴るエッセイ集。
●母も夫も亡くなった今、私は監督される人もいないから、思うままに暮らすことにした。生まれてこの方味わったことにない自由の境地である。猫を抱いたまま、「二人」で眠ってしまうこともある。
●与えねばならない仕事があるということは幸せなことだ。それがないと「自分がしてもらう」だけの立場になり、運動能力、配慮、身の処し方、すべてが衰えてくるだろう。
●年を取ってしなくてよくなったものには、お金の計算もある。百歳まで生きるとしても、その間にかかる費用は一瞬のうちに「目の子」でわかるようになったからだ。
●人間は与えられているものの価値は、すぐに忘れるか、評価しない。しかし「ないものを数えるより、あるものを数えたほうがいい」という幸福の極意は忘れないようにするべきだ。そして更にあるものを増やしていけば、日本人は幸福な国民になれるはずなのである。
●死期だけは、人間の分際で介入してはいけない。治癒するために一応努力してみて、その結果はもはや「人間業」ではないのである。だから人間は、その個人として最も適切な年齢に死ぬようになっている。その自然な運命を乱すのが、事故と戦争だから、この二つの社会現象だけは起こさないように、社会は努力すべきなのである。
●私が常に人生で「最悪」を想定して生きるようになったのは、自分を守るためだったのだと思う。現実が想定していたより幾分でもマシであれば、絶望せずにすむからだ。それに、しょせん人生なんてその程度のものだと、私は思ったのだ。完全なんてありえない。何かがいつも欠けている。どれかを諦め続ける。それが私の人生だろうと、考えるようになった。
●人生とは、日々の当たり前のことの積み重ねで、充分なのである。
内容説明
「見た目の生活は全く変わらないが、夫の死後飼い始めた2匹の猫だけが、家族の数を埋める大きな変化である」。ベストセラー『夫の後始末』のその後。夫・三浦朱門の死去から5年、90代を迎えた著者が辿り着いた境地とは―。ひとりの老後を豊かに暮らすためのヒントが満載。日常の気構えと幸福の極意を綴るエッセイ集。『自分流のすすめ』を改題のうえ、インタビュー「寂しさは埋まらなくても、友と猫と食事があれば」を増補した決定版。
目次
猫との生活
猫のお母さん
「世間」とはその程度
磨き立てた鍋
世間に学ぶ
マグは我が友
居場所
卓上の幻想
何かが足りない
台所の客
会話力
最高の料理人
便利なほうを選ぶ
予測しなくても生きられる
土持ち
猫の言葉
人生の傷は痛いか
制服と行進
空間を守る
目的までの長短
寂しさは埋まらなくても、友と猫と食事があれば
著者等紹介
曽野綾子[ソノアヤコ]
1931年、東京に生まれる。作家。53年、三浦朱門氏と結婚。54年、聖心女子大学英文科卒。同年に「遠来の客たち」で文壇デビュー。79年、ローマ教皇庁よりヴァチカン有功十字勲章を受章。93年、日本芸術院賞・恩賜賞受賞。95年12月から2005年6月まで日本財団会長(本データはこの書籍が刊行された当時に掲載されていたものです)
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