出版社内容情報
大日本帝国陸軍の変化を、デモクラシーとの関わりに着目して論じる試み。軍と社会が影響を与え合った経緯を描き出し、近現代日本の一面を照らす。草創期の栄光と挫折、大正デモクラシーと軍縮、そして急速な政治化の果てに待っていたものは――。
【目次】
内容説明
陰湿、粗暴、狂信的…と語られてきた大日本帝国陸軍。しかし実際には、建軍当初から、国際的視野を持つ開明的な将校などは多く存在していた。一九四五年の解体までの七十余年で、何が変化したのか―。本書は、日露戦争勝利の栄光、大正デモクラシーと軍縮、激しい派閥抗争、急速な政治化の果ての破滅まで、軍と社会が影響を与え合った軌跡を描く。陸軍という組織を通し、日本の政軍関係を照らす、もう一つの近現代史。
目次
第1章 栄光からの転落
第2章 第一次世界大戦の衝撃
第3章 ポスト大戦型陸軍への挑戦
第4章 「大正陸軍」の隘路
第5章 「昭和陸軍」への変貌
第6章 陸軍派閥抗争
第7章 政治干渉の時代
第8章 日中戦争から対米開戦へ
終章 歴史と誤り
著者等紹介
〓杉洋平[タカスギヨウヘイ]
1979年生まれ。中学校卒業後、海上自衛隊生徒(41期)を経て國學院大學文学部史学科卒業、同大学院法学研究科博士課程後期満期退学。宮内庁書陵部編修課(非常勤)を経て同上大学院再入学、同修了。博士(法学)。日本銀行金融研究所(個別事務委嘱)などを経て、帝京大学文学部史学科准教授(本データはこの書籍が刊行された当時に掲載されていたものです)
※書籍に掲載されている著者及び編者、訳者、監修者、イラストレーターなどの紹介情報です。
感想・レビュー
※以下の感想・レビューは、株式会社ブックウォーカーの提供する「読書メーター」によるものです。
Hiroshi
9
日本陸軍が日露戦争後に藻掻き苦しみ対米戦争に踏み込んでいくのを見ていく本。著者は「陸軍は国防や陸軍自身に関する不安や焦燥感を克服しようと藻掻き苦しんだ果てに、過誤に過誤を重ね、最後は国家と面子の為歴史の隘路に迷い込んでいった」と書く。陸軍階級表や陸軍教育制度図と初学者への配慮がある。統帥権(軍隊の作戦用兵は天皇に直結し、内閣は関与できない)については軍部が政治から独立しているが、政治も軍から独立しており、軍事政権を樹立することが不可能な制度。その為軍部は陸軍大臣を通しての政治への関与をする等苦心している。2025/08/06
CTC
6
7月の中公新書新刊。著者は『昭和陸軍と政治』の帝京大文学部准教授。例えば“司馬史観”で視ると、明治期に燦然と輝いた日本或いは日本軍が…何故(司馬さんは“統帥権という魔物”の存在ゆえとする訳だが…)あのような体たらくで負ける戦争を選択しアジア中の無辜を苦しめ、惨めな屍を晒すことになるのか…と考え込んでしまう訳だが…そのGAPを埋める1冊だ。著者は筒井清忠門下、多くの先行研究を援用し、大正デモクラシー期を経て変容する陸軍の体質を視ていく。前作ほどの鮮やかさはないが手堅い一冊だ。2025/08/04
辻井凌|つじー
1
「多様な人々が集まる巨大組織」と陸軍をとらえると、これほど興味深い組織はないと感じる一冊。 「合理的に考えた結論が非合理」という、合理性が超えられない壁の存在は、現代でも無関係ではない。2025/07/26
ゆた
0
とてつもなく面白かった。明治維新から大正、昭和にかけて帝国陸軍の発足から太平洋戦争へと突入までを知ることができた。今まで陸軍はいつの時代も傍若無人で理不尽の具現化のように思っていたが、常に政治と戦い、世論に踊らされ、時には民衆から蔑まれる、そんな存在であったことが驚きであった。ただ、本書では国防を第一に考える軍部とそうでない内閣や世相との折衝が記されている。太平洋戦争への没落は大衆の罪が全くなかったとは言えない。いつの世も愚かなのは国民なのではないだろうか。もっと歴史を真剣に勉強すればよかったと思える一冊2025/08/12
O次郎
0
傍若無人な支配者、一般人をいじめ抜いた悪の軍隊--。しばしばそのようなイメージで語られる帝国陸軍の実像を丁寧に描く。本書の中で記述される大正期の世論に怯え、隊内民主化に走る陸軍の姿は前述のイメージを大きく変える。一方、重要な指摘は大正期に醸成された被害者意識と恐怖が昭和期の暴走を招いたという点だと感じた。陸軍の被害者意識が300万人国民の犠牲とそれを遥かに上回るアジアの犠牲者、そして自身の解体を招いた史実は皮肉だが、その事実を踏まえ、我々はどのように現代政治に向き合うべきか。考える契機になる1冊だった。2025/08/11