内容説明
荻生徂徠、安藤昌益、本居宣長、平田篤胤、吉田松陰―江戸時代は多くの著名な思想家を生み出した。だが、彼らの思想の中身を問われて答えられる人は多くないだろう。それでも、難解な用語の壁を越え、江戸の時代背景をつかめば、思想家たちが何と格闘したのかが見えてくる。それは、“人と人との繋がり”という、現代の私たちにも通じる問題意識である。一三のテーマを通して、刺激に満ちた江戸思想の世界を案内する。
目次
江戸思想の底流
宗教と国家
泰平の世の武士
禅と儒教
仁斎と徂徠(方法の自覚;他者の発見、社会の構想)
啓蒙と実学
町人の思想・農民の思想
宣長―理知を超えるもの
蘭学の衝撃
国益の追求
篤胤の神学
公論の形成―内憂と外患
民衆宗教の世界
著者等紹介
田尻祐一郎[タジリユウイチロウ]
1954(昭和29)年水戸市生まれ。東北大学大学院文学研究科博士課程単位取得退学。現在、東海大学文学部教授。専攻は日本思想史(近世儒学・国学・神道)(本データはこの書籍が刊行された当時に掲載されていたものです)
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感想・レビュー
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skunk_c
66
戦国期以来の民衆仏教やキリスト教に対する圧迫から始まり、支配思想であった朱子学の相対化、また文人統治主義の中国・朝鮮と武威統治の日本の違いなどを織り込みながら、時を追って様々な思想を概説している。著者は個々の思想家に入れ込みすぎると自嘲するけど、そのくらいでないと魅力は伝わらないので問題ないと思った。そして日本の思想の基底にある記紀が、通奏低音のように影響を与え続け、それが幕藩体制の崩壊期にその次の支配思想を準備していく様子を傍証できた感じ。自分の知識の乏しい面だったので、かなり色々と学び取れたと思う。2021/05/12
翔亀
51
なぜ江戸思想史か。かつて丸山真男が伊藤仁斎に近代的思想の誕生を探ったと言われ、かの「日本政治思想史研究」を読もうとして全く歯が立たなかった学生時代を懐かしく思い出すが、最近、藤村の「夜明け前」では平田篤胤が、万葉集の解説では契沖や本居宣長が、顔を出し気になってきた。確かにこの時代に何かが起こったのだ。本書は、儒教から国学、実学、蘭学そして民衆宗教まで幅広く江戸時代の思想家を紹介している。近代の観点など一定の視角から評価することはせず、それぞれの思想家に寄り添っているのが好ましい。日本史上、安定した↓2017/01/28
Book & Travel
42
新井白石が主人公の藤沢周平『市塵』を読んで、江戸時代の儒学者、思想家をもう少し深く知りたくて手に取った本。戦国末期の一向宗、キリスト教から儒教と禅、伊藤仁斎に荻生徂徠、実学に蘭学、本居宣長、平田篤胤に民衆宗教などなど、網羅的に記されている。一つ一つの思想の解釈は難しい所もあるが、近代に繋がる社会の変化の中で、多くの人が悩み考え抜いて、様々な思想が興ってきたことが生き生きと伝わってきた。後書きにも少し自虐的に書かれているが、著者の思想家への興味が溢れているのがいい。難しくても引き込まれるいい本だった。2018/01/26
mitei
33
江戸時代においては尊皇攘夷の思想が長い平和な時代に培われていったが、今の時代も似たようなものなのかなと思う。2011/11/15
chanvesa
22
朱子学や陽明学と言った古典の研究から独自の思想を見出した徂徠や、同様の宣長のユニークさ、偉大さ、そして後世への影響に目を引かれる。徂徠が『政談』で述べる武士の土着への回帰としての制度改革(100頁)は、復古的な内容かもしれないが、現状分析からスタートした改革提示であり、科学的であり、近代的である。2018/02/18