内容説明
幕末維新期、若くして英国に留学、西洋文明の洗礼を受けた伊藤博文。明治維新後は、憲法を制定し、議会を開設、初代総理大臣として近代日本の骨格を創り上げた。だがその評価は、哲学なき政略家、思想なき現実主義者、また韓国併合の推進者とされ、極めて低い。しかし事実は違う。本書は、「文明」「立憲国家」「国民政治」の三つの視角から、丹念に生涯を辿り、伊藤の隠された思想・国家構想を明らかにする。
目次
第1章 文明との出会い
第2章 立憲国家構想―明治憲法制定という前史
第3章 一八九九年の憲法行脚
第4章 知の結社としての立憲政友会
第5章 明治国制の確立―一九〇七年の憲法改革
第6章 清末改革と伊藤博文
第7章 韓国統監の“ヤヌス”の顔
著者等紹介
瀧井一博[タキイカズヒロ]
1967年(昭和42年)福岡県生まれ。90年京都大学法学部卒業。92年京都大学大学院法学研究科修士課程修了。98年京都大学大学院法学研究科博士後期課程修了。博士(法学)。1995年京都大学人文科学研究所助手。2001年神戸商科大学助教授。04年兵庫県立大学経営学部助教授。06年、同大学経営学部教授。07年より国際日本文化研究センター准教授(08年より総合研究大学院大学准教授を兼任)。『文明史のなかの明治憲法』(講談社選書メチエ、2003年、角川財団学芸賞受賞、大佛次郎論壇賞受賞)(本データはこの書籍が刊行された当時に掲載されていたものです)
※書籍に掲載されている著者及び編者、訳者、監修者、イラストレーターなどの紹介情報です。
1 ~ 1件/全1件
感想・レビュー
※以下の感想・レビューは、株式会社ブックウォーカーの提供する「読書メーター」によるものです。
mitei
154
伊藤博文が政治家としてどのように考えて行動していたのかがよく分かった。こういう人が今の政治家にいてたら面白いな。2011/10/28
Tomoichi
25
子供の頃の千円札は伊藤博文で偉人の代名詞のような存在であった伊藤が気がつけば左翼連中による不当評価で貶められていた。そんな伊藤を再評価する本書では大日本帝国憲法をはじめ制度設計・立憲主義の確立など資料をもとに先入観なしに考察していく。結論から言えばやはり伊藤は「大政治家」であったということである。偉大であるため理解されない悲劇の人物かもしれない。本書でも取り上げられている韓国問題だが彼らは当時も現在も観念の世界に生きている面倒な隣人である。2018/02/28
月世界旅行したい
17
実務派、あるいは円滑主義と言いわれて納得。そのような態度の人間なので外から見るとわかりやすいところが少ないというのが特徴だそうです。そういうわかりにくさはウケが悪いのだろうけど、だからこそこういう本を出す価値があるのだろう。2015/04/04
健
15
かなり前「伊藤博文が暗殺されずに明治維新を生き残り総理大臣になれたのは、重要人物と思われなかったからだ」と聞いて、以来、そのまま来たのだけど、『陸奥宗光』に頻繁に登場したので読んでみたら、とんでもない偉大な人物だった。今更ながら伊藤博文に申し訳なかったと思う。日本が民主主義の近代国家になれたのは、彼の国家観の賜物だったという事が凄く良く分かる。イデオロギーよりも国の制度設計とその構築に心血を注いだ政治家だったのだ。日本の民主主義は伊藤博文から始まっていた!道理で掴み処が無いわけだ。大変参考になった。2024/03/18
MUNEKAZ
14
伊藤博文の思想に着目した評伝。著者は立憲政治の確立と国民の教化により日本の文明国化を、伊藤が目指したとする。この辺は「変節漢」「現実主義者」と思われがちな伊藤の理想主義的な面が垣間見えて興味深い。偏狭なナショナリズムや党派対立を嫌った伊藤だけに、晩年の韓国統監で躓きを被るのは、なんとも運命的にも感じられる。日本において彼の漸進主義の改革が成功したのも、つまるところは明治天皇との個人的な信頼関係があったからで、逆に韓国では高宗とそうした関係が構築できなかったし、望めなかったというのが大きいのかもしれない。2018/05/06