内容説明
リストラ、転職、キレる若者たち―日本はいま「安心社会」の解体に直面し、自分の将来に、また日本の社会と経済に大きな不安を感じている。集団主義的な「安心社会」の解体はわれわれにどのような社会をもたらそうとしているのか。本書は、社会心理学の実験手法と進化ゲーム理論を併用し、新しい環境への適応戦略としての社会性知性の展開と、開かれた信頼社会の構築をめざす、社会科学的文明論であり、斬新な「日本文化論」である。
目次
第1章 安心社会と信頼社会
第2章 安心の日本と信頼のアメリカ
第3章 信頼の解き放ち理論
第4章 信じる者はだまされる?
第5章 社会的知性と社会的適応
第6章 開かれた社会と社会的知性
後書き(研究の舞台裏)
感想・レビュー
※以下の感想・レビューは、株式会社ブックウォーカーの提供する「読書メーター」によるものです。
yyrn
31
『その日暮らしの人類学』(16)の小川さやか女史がおススメしていた本。日米の比較実験を使って日本人の集団主義の誤解を指摘し、日本社会の対人関係は「安心できる身内」か「信頼できないよそ者」の二つしかなく、「そこそこ信頼できる他人」がないのが問題だとし、「限られた人間関係の中で安全・安心を追求するより、信頼によって不特定多数の人との関係を切りひらく能力を高める方がこれからは重要」と説く。ちなみに、さやか女史の「タンザニアの露天商いわく。絶対に裏切らない関係よりも相手の事情を斟酌して時にはだまされたふりを⇒2021/02/19
安国寺@灯れ松明の火
12
職場で思うところがあって再読。別の所で著者は、物事を「○○文化」という言葉では説明したくないと言っています。本書で紹介される実験という手法を採る理由はそのあたりにあって、人の内面は検証できないけれども、行動や、その裏付けとなる判断は検証できるからだと思います。私はこの姿勢は会社勤めの身でも参考にすべきで、ある人が取った行動(ポカミスを含め)の原因を、「仕事への意欲」や「社会人としての自覚」といった内面に帰結する前に、目的や状況、手段についてどのような判断をしたのかを問うべきではないかと思います。2014/07/26
ブック
11
様々なことに言及しているので、一言で感想にするのは難しいが、この本がSNSも存在しない1999年に書かれているということが驚異的だ。安心社会の崩壊を乗り越える方法として、政治や社会の透明性を提案しているが、この後、安倍政権が特定秘密保護法など、透明性とは真逆の方向に社会を牽引したことによって、20年後の日本は残念ながら見る影もない姿になってしまった。しかし、むしろポストコロナに向けて、これからの社会再生に役立てられるかも知れない。帯の糸井重里の言葉は、多分、本書を読まずに適当に書いたのだろうと想像する。2022/01/03
白義
10
これは社会心理学の本としても、日本論としても飛び抜けて面白い!アメリカ人より日本人のほうが他人への信頼が薄いとか、人を信頼するお人好しの正直者は得を見るとか一見通説と全く異なる議論が、実証的な社会心理学の実験で次々明かされるのはとにかく痛快。そこから日本を崩壊しつつある安心社会と捉え、信頼社会への転換を目指す議論の運びは10年以上前の本とは思えないくらい今に通じます。糸井さんも言っていましたが、一般的な他者への信頼を持つこと、正直であることの利点が実証されてるのは勇気づけられる思いです2011/06/02
あやなる
9
限られた人たちとの関係性の中で守られて安心していられた社会から、オープンな社会に移りゆく時代。集団主義的な考え方よりも必要とされるのは、個人が社会的知性を身に着けること。その通りだと思うし、これを1999年に書いてるのはすごいなぁと思った。 ただ、論理が細かい!実証実験の設定から結果まで丁寧に書かれすぎてて、長かったよw 学術書寄りなのかな?2021/11/28