内容説明
原爆の出現は歴史を核以前・核以後に二分する出来事であったが、この二つの時代の間で運命を引き裂かれたオッペンハイマーは、現代の科学者の象徴といえる。原爆の完成によってヒーローとなり同僚の拍手に両手を挙げて応じた男が、数ヵ月後には「私の手は血で汚れている」と震えた。科学者が抱くこの最大級の矛盾を核の国際管理を構想することで解決しようと試みた彼は、水爆開発に反対し、赤狩りの渦中で公職から追放された。
目次
序章 「危険」と「希望」
第1章 オッペンハイマーはスパイだった?
第2章 理論物理学者「オッピー」の誕生
第3章 マンハッタン計画への参加
第4章 原爆の完成と対日投下
第5章 原子力の開発と管理
第6章 水爆開発をめぐる対立
第7章 オッペンハイマー事件
終章 科学と政治の接点を生きた科学者
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感想・レビュー
※以下の感想・レビューは、株式会社ドワンゴの提供する「読書メーター」によるものです。
ジュンジュン
14
西暦がキリスト以前と以後で区切られるように、遠い未来、人類は核以前と以後で歴史を記録するのだろうか?そうなると、十字架を背負い、ゴルゴダの丘を登ったのは、彼となるだろう_オッペンハイマー。本書はコンパクトな伝記ながら、「核開発・管理に対する科学者からの提言(報告)」への考察が目立つ。なぜ水爆開発に反対したのか_核使用に反対したのではなく、破壊力がありすぎてコントロールできない水爆より、多種多様な戦術核を作れ。オッペンハイマーは科学者にして”行政官”。2022/01/18
Ex libris 毒餃子
10
オッペンハイマーの映画がやるとのことなので、読んでみる。オッペンハイマーの話よりもアメリカ原爆開発史の側面が強い。2023/07/30
大島ちかり
9
論文形式なので読みにくかった。オッペンハイマーのもう少し人間味のある葛藤を知りたかった。アメリカは今も昔も変わらない。と思う。正当性を持って爆弾を落としたら罪悪感は無さそう。2023/11/02
ZEPPELIN
8
日本への原爆投下に関して、オッペンハイマーは反対していなかったとのこと。その後、ソ連が核実験に成功し、アメリカ国内で水爆開発を求める声が高まると、今度は反対する。水爆の是非はともかく、「原爆はいいけど水爆はダメ」というオッペンハイマーよりも、「兵器にモラルなどない」という賛成派の方に説得力があったのも無理はない。IAEAというオッペンハイマーが目指したであろう機関は出来たけれど、それで安全が確保されたかといえば間違いなくノーであり、もう過去には戻れないという事実しか残らない2015/05/25
大泉宗一郎
6
ノーランの映画を鑑賞し拝読。核開発とその後の事件を辿る展開は映画と同様だが、本書の論旨はオッペンハイマー自身ではなく政治における科学者の役割を問うものである。そのためオッペンハイマーのみならず、開発に携わった科学者らや一貫して原爆開発に反対した科学者らなど、オッペンハイマーを対照化させる人物や環境・政治情勢などをつぶさに取り上げることで、彼がどのような政治バランスのなかで決断したのかを照射し、その功罪と責任を浮き彫りにしてゆく。手軽で読みやすく、映画では不鮮明だった当時の状況がかなりクリアになった。2024/06/25
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