内容説明
原爆の出現は歴史を核以前・核以後に二分する出来事であったが、この二つの時代の間で運命を引き裂かれたオッペンハイマーは、現代の科学者の象徴といえる。原爆の完成によってヒーローとなり同僚の拍手に両手を挙げて応じた男が、数ヵ月後には「私の手は血で汚れている」と震えた。科学者が抱くこの最大級の矛盾を核の国際管理を構想することで解決しようと試みた彼は、水爆開発に反対し、赤狩りの渦中で公職から追放された。
目次
序章 「危険」と「希望」
第1章 オッペンハイマーはスパイだった?
第2章 理論物理学者「オッピー」の誕生
第3章 マンハッタン計画への参加
第4章 原爆の完成と対日投下
第5章 原子力の開発と管理
第6章 水爆開発をめぐる対立
第7章 オッペンハイマー事件
終章 科学と政治の接点を生きた科学者
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感想・レビュー
※以下の感想・レビューは、株式会社ブックウォーカーの提供する「読書メーター」によるものです。
みこ
18
映画に合わせて購読したのだが、後書きを読んで30年前の著作と知る。映画である程度彼の生い立ちを知っていたので、スムーズに読めた。行政官として政治的発言を繰り返していたことで他の科学者と一線を画していたことも、映画内のアインシュタインとのシーンで何となく察せられていた。軍拡の行き着く先が暗い未来になると水爆の開発に反対していたことも矛盾を感じない。原爆を完成させた後が彼にとっての本当の闘いだったのだ。世界で起きている争いが最悪の結果にならないことを祈るのみである。2024/07/13
ジュンジュン
14
西暦がキリスト以前と以後で区切られるように、遠い未来、人類は核以前と以後で歴史を記録するのだろうか?そうなると、十字架を背負い、ゴルゴダの丘を登ったのは、彼となるだろう_オッペンハイマー。本書はコンパクトな伝記ながら、「核開発・管理に対する科学者からの提言(報告)」への考察が目立つ。なぜ水爆開発に反対したのか_核使用に反対したのではなく、破壊力がありすぎてコントロールできない水爆より、多種多様な戦術核を作れ。オッペンハイマーは科学者にして”行政官”。2022/01/18
Ex libris 毒餃子
10
オッペンハイマーの映画がやるとのことなので、読んでみる。オッペンハイマーの話よりもアメリカ原爆開発史の側面が強い。2023/07/30
大島ちかり
9
論文形式なので読みにくかった。オッペンハイマーのもう少し人間味のある葛藤を知りたかった。アメリカは今も昔も変わらない。と思う。正当性を持って爆弾を落としたら罪悪感は無さそう。2023/11/02
ZEPPELIN
8
日本への原爆投下に関して、オッペンハイマーは反対していなかったとのこと。その後、ソ連が核実験に成功し、アメリカ国内で水爆開発を求める声が高まると、今度は反対する。水爆の是非はともかく、「原爆はいいけど水爆はダメ」というオッペンハイマーよりも、「兵器にモラルなどない」という賛成派の方に説得力があったのも無理はない。IAEAというオッペンハイマーが目指したであろう機関は出来たけれど、それで安全が確保されたかといえば間違いなくノーであり、もう過去には戻れないという事実しか残らない2015/05/25