感想・レビュー
※以下の感想・レビューは、株式会社ドワンゴの提供する「読書メーター」によるものです。
てれまこし
7
道化の現代的意義を視野にいれた研究の本格化は20世紀、それもおそらく戦後らしくて、山口昌男の道化の民俗学と並んでこの新しい潮流の成果を日本に紹介したのが本書の功績らしい。入門書としては期待通りだが、じゃあこれだけ読んでれば要所は抑えられるかというと怪しい。個々の作品の読みがまだ文学的解釈の域を脱してない印象で、読み進むにつれて民衆文化の道化と文学の関係はむしろわかりにくくなる。よほど文学に特化した人でないとこれで満足はすまい。今となっては既存の研究の上澄み以上、それ以下のものを多く含む古い入門書に感じる。2023/05/01
amanon
4
タイトルからある程度その内容は予想できたが、予想以上の面白さでほぼ一気読み。もっと早いところ読んでおけばよかったと思うことしきり。あらゆる価値を反転、あるいはフラットにし、普段我々が常識だと認識している物事について新たな視点をもたらしてくれる「道化」という存在。その豊穣な意味を込められた道化が文学において最も花開いたルネサンスという時代の重要性、特異性が如実に理解できる。そして、その次にくる主にデカルトによって牽引された理性の時代が、道化、ひいては狂気をどう扱ったかは、今日の我々にとっても大きな問題。2022/06/28
つまみ食い
3
エラスムス、ラブレー、セルバンテス、シェイクスピアらの作品における道化の機能が論じられる。特に道化と英雄の間にある点にハムレットの人物造形の新しさを論じるのは興味深かった。2021/06/27
青縁眼鏡
3
ドン・キホーテの道化について読むと、シェイクスピアの道化について理解が深まる気がした。参考文献をメモ。2019/07/07
よっしー
3
勧善懲悪的な世界においては、悪は排除されるべき対象であり、反対に悪の立場からすれば善こそが排除されるべき対象である。しかしながら、「排除する」という意味では善も悪も同じである。例えば、このような具合に異質なものの対立を結合することは、一方で固定した視点を覆し硬直した自我の緊張緩和につながるが、他方で人が依って立つ場所を徹底的に切り崩し自我の消失にもつながる。あらゆる観念の相対化が果てしなく繰り返される過程において生じるのは、すべてがあり同時に何もないような空間である。道化が潜むのは、かの両義的な場所なり。2012/10/10