出版社内容情報
もう誰に向けて話しているのでもない。梦(くらがり)はいっそうに深くなり、闇と影とのただ中には、最早誰がいるものやら、いっこう判りはしないのだ。目を凝らしても淡朦朧(うすぼんやり)と、幽かに人形が浮かぶだけ。誰とも知れず、顔も罔(な)いならそれは、正に幽霊である。
幽霊と話しているようなものだ。(本文より)
幽霊役のみ天下一品の役者・小平次。家では押入に引きこもったまま、彼を疎んじる妻と暮らす。ある日、囃子方の多九郎が高額の旅興行の話を持ってきたが、その裏には小悪党の又市がいるという。山本周五郎賞受賞作。
〈解説〉斎藤環
京極夏彦「第一六回山本周五郎賞受賞のことば」
縄田一男「甦る幽霊たち 「京極怪談」の意義」
を増補した決定版
内容説明
幽霊のみが得意な役者・小平次。次の旅興行の裏には御行の又市がいるという。山本周五郎賞受賞作。
著者等紹介
京極夏彦[キョウゴクナツヒコ]
1963年生まれ。94年『姑獲鳥の夏』でデビュー。96年『魍魎の匣』で第四九回日本推理作家協会賞(長編部門)、97年『嗤う伊右衛門』で第二五回泉鏡花文学賞、2003年『覘き小平次』で第一六回山本周五郎賞、04年『後巷説百物語』で第一三〇回直木三十五賞、11年『西巷説百物語』で第二四回柴田錬三郎賞、22年『遠巷説百物語』で第五六回吉川英治文学賞を受賞(本データはこの書籍が刊行された当時に掲載されていたものです)
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感想・レビュー
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APIRU
7
襖がすうと開き、そして閉まってゆくその幕終たるや、思わず嘆息が漏れてしまうのです。古典怪談の傑作を換骨奪胎した、京極版「小幡小平次」。自分にとっては『姑獲鳥』に比肩するくらいのフェイバリットです。隙間から覘く稀代の幽霊役者。ある者は怨嗟を向け、ある者は畏怖を抱き、ある者は虫酸を覚える。旅打ち興行において、それぞれの宿痾が斉放するさまはこの上なくおぞましく、そして業が深いのです。それでいてそれを綴る筆致を追っていく愉悦がまた、他の追随を許さないものがあり、まさに京極小説における究竟のひとつだと思っています。2025/05/05
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