出版社内容情報
2012年のノーベル賞受賞後、最新作。
2011年から2020年までに書かれた短篇12篇収録
左鎌/遅咲きの男/偏屈者/消えた財布/モーゼを待ちつつ/詩人キンシプー/従弟寧賽葉/地主の目つき/大浴場・赤ベッド/天下太平/明眸皓歯/松明と口笛
内容説明
携帯が何十台もわたしを狙うなか、やむなく立ち上がって、みんなに手を振ってみせた。誰かが言うのが聞こえた。「見ろ。気取っておるわい―」農民はネットの世界を跋扈し、作家はノーベル賞受賞の狂騒に巻き込まれる―。“世界一美しく、世界一醜悪な故郷”高密県から放たれる人間悲喜劇12篇。ノーベル文学賞受賞後初の短篇集。
著者等紹介
莫言[モオイェン]
1955年、山東省高密県に農民の子として生まれる。幼くして文革に遭い、小学校を中退。兄の教科書や旧小説で文学に目覚める。76年に人民解放軍に入隊。85年に『透明な赤蕪』でデビュー。翌86年、『赤い高梁』で、倫理を超える農民の生命力を描いて絶賛される。2012年、ノーベル文学賞受賞
吉田富夫[ヨシダトミオ]
1935年広島県生まれ。63年京都大学大学院修了。佛教大学名誉教授。中国現代文学専攻(本データはこの書籍が刊行された当時に掲載されていたものです)
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感想・レビュー
※以下の感想・レビューは、株式会社ブックウォーカーの提供する「読書メーター」によるものです。
starbro
188
中国籍唯一のノーベル文学賞受賞作家、莫言、初読です。 ノーベル賞受賞後の最新短篇集、半分私小説の日本で言えば昭和の匂いがする泥臭い作品集でした。オススメは表題作「遅咲きの男」&「天下太平」&「明眸皓歯」です。 https://www.chuko.co.jp/tanko/2021/06/005444.html2021/07/29
ヒデミン@もも
53
どうしてこの本を手に取ったのかわからない。この表紙のスッポンに惹かれたのか。莫言さん、初読み。読み始めると私が知らない中国の話なのに何故か懐かしい。吉田富夫さんの役が秀逸なのか、自然と物語に入り込める。2021/07/25
ちゃっぴー
15
莫言さんがノーベル文学賞を受賞したとき、中国国内では賞賛の声ばかりではなく、一番吹き出たのは、やっかみによる誹謗中傷だったそうで。それに対しもの言う手立ては作品として書いて残すこと。そのような短編集が入っている。ノーベル賞受賞の肩書きを利用しようてインチキ観光で儲けようとする人々。ネットへのデマの書込みで儲けを企む参謀殿。 「遅咲きの男」「明眸皓歯」「天下太平」がよかった。ー「ネットでは義道徳は言わないで無恥で残酷であればあるほどいいのよ」まっこと恐か!2021/10/08
mawaji
10
「蛙鳴」以来の莫言さん。ノーベル賞受賞後の短編集ということで、賞賛の声とともに眼紅病に襲われた状況をユーモアを交えて綴られていますが、彼の地で文筆活動を続ける苦労話というよりは強いられる不自由を「弁当箱」対応で切り抜ける物語を読むと、柔軟さとしたたかさを持ち合わせた優れた作家さんなのだという印象をより強く持ちました。「おのれの悪に気づいている人間の心には良心というものがなお残っているからこそおのれの悪がわかるけど、おのれの悪に気づかぬ悪人はおのれが正しいとしか思わず、いつまでも他人を憎み、罵るんですね。」2022/01/08
フランソワーズ
10
中国の変革期の前後で、人々の暮らし・人生が180度変わる悲喜劇が描かれる。そんな激動の時代を生きる人たちだからこその、破天荒さ、不羈さ、そして時に下卑た彼らは、毒たっぷりのユーモアがあり、警句めいた言葉を吐く(これを「大陸的」というのでしょうか)。文章は軽妙で、慷慨な語り口のようでありながら、一方で人の営為は手堅くしっかりと描写している(特に農村での情景を描いているところは、良いです)。お気に入りは、表題作と『左鎌』、『明眸皓歯』です。2021/07/17