出版社内容情報
元陸軍主計大尉・冬至堅太郎は、米軍飛行士捕虜の処刑に加わったとして、いわゆる「BC級戦犯」となった。1946年8月、巣鴨プリズン入所。48年12月、絞首刑判決。50年7月、終身刑に減刑され、56年7月に出所。
その冬至が46年8月から52年10月まで6年間にわたって獄中で綴った日記が、2018年5月に福岡市で発見され、テレビニュースでも報道された。この約3000頁に及ぶ膨大な日記のほか、獄中における思索の歩みを端正な文章でまとめた「苦闘記」には、遺される家族への断ちがたい恩愛の情、仏典や聖書に救いを求める宗教的煩悶が綴られており、惻々と胸に迫る。また刑の執行を申し渡され、別れを告げながら刑場へ向かう仲間の姿、来週は自分の番かとおののく死刑囚たちの心情の描写は、極限状況下におかれた人間の赤裸々な真実を伝えている。とりわけ、冬至が獄中で出会った岡田資・元陸軍中将たちとの交流、「巣鴨の父」と呼ばれた教誨師・田嶋隆純氏への敬慕の情は、本書のクライマックスであろう。
本書には「苦闘記」と日記(抄録)、獄中時代の短歌・俳句、版画のほか、出所後に記された随筆2篇を収録し、巻頭に宗教学者の山折哲雄氏が解説を付す。戦争の不条理と悲惨さを伝える貴重な記録である。
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感想・レビュー
※以下の感想・レビューは、株式会社ブックウォーカーの提供する「読書メーター」によるものです。
0717
15
福岡大空襲で母を失った陸軍主計大尉の著者は、墜落した爆撃機の乗員だった米軍捕虜の処刑現場に出会す。激昂に駆られ志願して4名の斬首、これが後に西部軍事件の実行者としてBC級戦犯で絞首刑判決を下されることとなり、本書は巣鴨の獄中での手記。獄中での生活、家族への思い、近く死すべき運命であること等々、赤裸々な思いが吐露されている。獄中出会った岡田資陸軍中将の最後、花山教誨師の後任、田嶋隆純教誨師の減刑活動等の事。2020/01/30
ケニオミ
10
処刑されていく誰もが、見苦しい振る舞いをすることなく、残る者たちに丁寧にあいさつをして処刑場に向かっていました。取り乱す人など一人もいないこと自体不思議な感慨を覚えました。死に立ち向かうための相当な努力をした姿だと思いますが、清さを覚えました。国のために戦い、そのせいで責任を取らされる。何だか理不尽なものも感じました。2019/09/29
パトラッシュ
8
前線で戦う軍人ではなく後方勤務の主計将校だった男が空襲で母を失った直後、捕虜となった米兵4人を志願して斬首した。当時の感情は察するに余りあるが、英雄的行為とされたはずが戦後BC級戦犯として死刑判決を受ける。巣鴨プリズンで次々と同囚者が絞首台へ向かうのを見送りながら、岡田資元中将と田嶋隆純教誨師から仏教思想を学び、人生や死を考え抜く極限の日々は文章を追うだけでも辛い。政治や戦争という巨大な不条理に運命を翻弄された誠実な一日本人の魂の記録であり、凡百の戦争論・軍事裁判論など無意味にしてしまう迫力に満ちている。2019/09/10
ののまる
6
東京駅の愛の像、知らなかった。2024/05/05
コウジ
5
大分長く掛かってしまったが読了。後半の3-40pに短歌 俳句の章があって完全にそこでストップ。詩歌の心得の無い事が露呈。 著者は戦時中に米兵を斬殺した事で巣鴨プリズンに入獄し、絞首刑の判決を受ける。 自分の子供と斬った米兵の子供が会う事は有るのだろうかと言う短歌は心に残ったな。 親の仇として斬った相手であっても時が経てば後悔の念も芽生える人間の性。 それにしても昔の知識人と云うか教養のある方々は生真面目で向学心や道徳心が図抜けているなぁと思いました。 勉強になりました。2021/04/26
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