出版社内容情報
灼熱の夏、23歳の母・蓮音は、
なぜ幼な子二人をマンションに置き去りにしたのか。
真に罪深いのは誰なのか。
あの痛ましい事件に山田詠美が挑む。
虐げられる者たちの心理を深く掘り下げて、日経新聞連載時から話題を呼んだ、迫真の長編小説
内容説明
灼熱の夏、彼女はなぜ幼な子二人を置き去りにしたのか。フィクションでしか書けない“現実”がある。虐げられる者たちの心理に深く分け入る迫真の長編小説。
1 ~ 1件/全1件
感想・レビュー
※以下の感想・レビューは、株式会社ブックウォーカーの提供する「読書メーター」によるものです。
ミカママ
558
その想像力に圧倒された。ここは「取材力」と書くべきところなのだろうが、登場人物たちの気持ちや背景を想像し、事件を再構築して書いたフィクションかと思われる。筆者のデビュー以来の作品(エッセイを含め)をほぼ読破しているわたしは、彼女がどれほど幸せな家庭に育ったかを知っている。そんな温かい家庭に育った彼女が、この事件を知ったときの衝撃はいかばかりか。いわく「家庭の温かみとは、(中略)その家に住む人間たちが互いを気に掛けているかどうかという証明」。事件の暗闇の本質は、われわれ読者には想像することしかできない。2021/12/27
ヴェネツィア
472
山田詠美による負の大河小説。琴音とその母、琴音、そして蓮音と母娘三代にわたる不幸とネグレクトの連鎖を描く。小説作法は三代のいずれかの物語が語られる(もちろん、それは娘にも及ぶのだが)といったオムニバス形式を採っている。それらはいわば過去の物語なのだが、さらにもう一つの時間軸である桃太と萌音の物語が語られる。こちらは、全き現在時であり、失われてゆこうとする時間の物語である。この小説を支えるのは、強固なまでの負のリアリティである。読者である私たちはいずれの瞬間においても何とかならなかったのかと思う。⇒2023/11/09
starbro
450
山田詠美は、新作中心に読んでいる作家です。実際の事件にインスピレーションを受けて書いた作品なので、ノンフィクションのような雰囲気です。旬のネタ(DV、ネグレクト、幼児虐待等)が満載で読んでて辛くなります。つみびとが多数登場しますが、皆、些細な事で罪を犯す弱い存在でした。特別に極悪な鬼母ではなく、不幸の連鎖で誰もが陥る可能性があるのが、大変怖さを感じます。幼き命を救うセーフティ・ネットが必要です。2019/06/15
ウッディ
328
幼児を置き去りにして死亡させた罪で捕らえられた蓮音、そしてかつて子供を残して家を出た母の琴音は、自分の行動が今回の事件につながっているのではないかと苦悩する。虐待の連鎖によって引き起こされる事件や失われる小さな命の責任は誰にあるのかを考えさせられる物語だった。琴音、蓮音、そして桃太の視点で紡がれるストーリーは、彼らも親の愛情を信じ、幸せを感じた瞬間があったこと、子供と一緒にいることにかけがえのない幸せを感じた瞬間があったことを伝えており、わかっていながら愛情を注ぎ続けることのできなかった後悔が切なかった。2021/05/07
いつでも母さん
231
〈小さき者たち〉が痛ましい。この兄妹には何の罪もない。では、つみびとは誰?虐待を受けていた人間は全て連鎖するのかーそうでは無い。が、人が壊れるのはこうして壊れるんだ。超えられない一線は簡単に超えられるのだ。と私に突きつける。何か一つ違っていたら・・それは後になって思うこと。それは虐げられたことのない者が言いそうな言葉か。「幸せになりたかっただけ。そのやり方を間違えた」間違いはやり直せるけれど、幼子は還らない。蓮音の過ごす30年は祈りと贖罪の時間だろう。苦しい読書になった。2019/06/17