出版社内容情報
雨の日も風の日も、雲ひとつない青空の日も、手に届かないものをずっと見あげていた――
季節の移ろいと響きあう、46の短い小説のような随想のつらなり。『正弦曲線』『戸惑う窓』に続く、著者独自の世界が広がる待望の散文集。
堀江 敏幸[ホリエトシユキ]
著・文・その他
内容説明
季節の移ろいと響きあう、どこにも所属しない散文集。
目次
1(仮面の下;落ちていく花 ほか)
2(黄金のやどりぎのように咲く命;雪の白を奪った花 ほか)
3(雲水のあいだを走る;頑なに守るもの ほか)
4(春の空にのぼる;負の座標に向かって ほか)
著者等紹介
堀江敏幸[ホリエトシユキ]
1964年、岐阜県生まれ。作家(本データはこの書籍が刊行された当時に掲載されていたものです)
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感想・レビュー
※以下の感想・レビューは、株式会社ブックウォーカーの提供する「読書メーター」によるものです。
かりさ
62
散文のような或いは唐突で断片的な文章は、堀江さんの言葉や思考をのせればふわっと立ち上りその心地良さにいつまでも漂っていたくなる。凛とした美しい言葉で綴るどこまでも広がる表現の世界に思考の深みに潜り込む心地よさを教えてくれるような。折しも春爛漫の頃読んだので花の章とも言える花々の話たちに自然に心惹かれた。水仙の四日、紫木蓮、ワレモコウ、石蕗…花々の持つ色香をさらに艶やかに色染める。春の空の天辺と桃色の綿雲、青の支配を和らげる雲の存在、八月の陽光には音がある…散りばめられた文章は読み終えてひとつの物語になる。2018/04/10
しゃが
50
“雨の日も風の日も、雲ひとつない青空の日も、手に届かないものをずっと見あげていた…ひたすら坂を見上げて、喫水線につどう言葉のゆらめきを眺めていよう―「いま」がむなしく通り過ぎていくのをほんの少しでも遅らせるために。” と静かに滲みるような散文集を日々触れていたい。季節の移ろいや自然の営みへの気づきが繊細で、その表現も豊かでやさしく何より美しい。ウィットのエピソードも上品。ハクモクレンやワレモコウ、好きな花たちが共有できて嬉しい。手に触れたことのある文学作品もこんな読み方があったのかと目からうろこで愉しい。2018/05/18
竹園和明
42
“「いま」が虚しく通り過ぎるのを少しでも遅らせるために”と後書きにあるように、坂の下に佇みながらさまざまな事に想いを巡らす随想集。坂道とは自分の前向きな気持ちをどれだけ持続出来るかを試す場…というのが著者の意図。また実際、道沿いの景色に色んな想いを馳せる場でもあろう。題材を咀嚼して紡ぐ言葉は相変わらず美しく、豊富な語彙をさり気なく駆使した文章は高貴ささえ漂う。幼少期から育まれたと思われる花にまつわる逸話の数々が清らかでエレガント。いつの日かこのような美しい言葉で日常を語れるようになれたらいいなと思った。2018/04/19
よこたん
41
“八月の陽光には音があることをお前は知っているかと、だれかが耳もとでささやく。そう、光にも音があるのだ。” エッセイより散文集と呼ぶのが似つかわしい一冊。堀江さんの、静かに流れる清らかで冷涼な水のような文章が心地よく、ほわぁ~と憧れつつ読んだ。季節の花を語った章が特に好みだった。知識が追いつかなくて咀嚼しきれない話題も正直いくつもあったが、佇まいには酔えるというありがたさ。学生の頃好きだった辻邦生の『安土城往還記』が引用されていたことが嬉しい。試験監督中に、自作品を試験問題に見つけてしまった気まずさも。2018/04/07
アキ
38
選択されている言葉のセンスがいい。短いエッセーだが、フランスの詩人のようにことばがたゆたう。「頑なに守るもの」で“墨守する”ということばの意味、“知性を欠いた直感はひとつの事故である”ポール・ヴァレリーのことばの解釈、“石蕗(つわぶき)”の葉が「硬くて光つ」と漱石「明暗」からの引用、どれをとっても深い教養と植物・海外の古典・日本文学への造詣と異なった視点での考えをあざやかに示してくれる。「坂を見あげて」という題も高台から見下ろす対としての言葉。著者の姿勢を現わす。同い年、初めて読んだ。他の作品も楽しみ。2018/11/07