内容説明
日本の言説空間の閉塞状況を乗り越え、イスラーム世界の全体像を理解する枠組みを提示し、真の「対話」の可能性を探る。サントリー学芸賞受賞作(思想・歴史部門)に新たに8篇の論考を収録。
目次
第1部 構造(メディアの射程;思想の円環)
第2部 視座(人質にされたもの;予定調和を超えて)
第3部 時間(夜明けを待ちながら;自由のゆくえ;散らばったパズル)
第4部 対話(乱反射する鏡像;われわれにとって「イスラーム」とは何か)
著者等紹介
池内恵[イケウチサトシ]
1973年、東京都生まれ。1996年、東京大学文学部思想文化学科イスラム学専修課程卒業。2001年、東京大学大学院総合文化研究科地域文化研究専攻博士課程単位取得退学。アジア経済研究所研究員、国際日本文化研究センター准教授を経て、2008年10月より東京大学先端科学技術研究センター准教授。専門分野はイスラーム政治思想史、中東地域研究。主な著書に『現代アラブの社会思想―終末論とイスラーム主義』(講談社現代新書、2002年。第2回大佛次郎論壇賞)、『書物の運命』(文藝春秋、2006年。第5回毎日書評賞)、『イスラーム世界の論じ方』(中央公論新社、2008年。第31回サントリー学芸賞)、『中東危機の震源を読む』(新潮選書、2009年)、『イスラーム国の衝撃』(文春新書、2015年。第69回毎日出版文化賞・特別賞)など(本データはこの書籍が刊行された当時に掲載されていたものです)
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感想・レビュー
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傘緑
35
「大手有力メディア上では、近年こういったインターネット上の世論形成に対する批判が増えた。しかしどうも『自分たちにとって都合の悪い意見が優勢になったときだけ叩く』という傾向が目につく…インターネットの匿名性から生じる問題よりも、匿名の場でもなければ活発な議論が成立しない状況のほうが深刻だろう。インターネットへの注目の高まりは、既存メディアの閉塞の副産物でしかない」2004年執筆の論考。天下のCNNがトランプにイジメられたとママに告げ口するスネオのように半狂乱に騒いで、日本のメディアも同調。この現状、醜態の域2017/01/12
みねたか@
22
2008年刊行の書の増補版。イラク戦争、自衛隊派遣、人質事件など当時の記憶が蘇る。ヨーロッパの中のイスラーム、グローバル化とアラブ諸国など、10年余を経ても違和感なく受け止められる。繰り返し言及されるイスラーム教とキリスト教あるいは東洋的な心性との価値基準と規範理念の大きな相違。人間には神の命令を履行する義務があり、その義務の履行を保障することが社会と政府に求められるという価値基準。簡単には分かり合えない隔たりがあることを前提とした対話の重要性。隔たりを埋めるのは相手への関心と敬意か。2024/06/05
白義
19
学術論文から時事的でごく短い文まで一見雑多に見えるものの、全体を通して読むと現代のイスラーム論の歪み、イスラームと近代社会のジレンマというテーマにおいて強い一貫性がある。移民問題や表現の自由、グローバルジハード運動など今日ますます重要性を深めつつある論点を十年以上前から認識しその深刻さを訴える予見性にも驚き。特に強い主題はイスラームへの幻想、バイアスからイスラーム社会自体の問題を認識できず踏み込めない良心的な知識人への批判であり、その射程は法学を軽視し神秘思想紹介に傾斜した井筒俊彦以降の中東研究にまで及ぶ2016/07/03
seki
18
メディアに掲載された筆者のイスラムに関する論評を再構成したもの。イスラムの思想体系が難しすぎて、半分以上は理解できていない。論評はイラク戦争やテロなどに関するものが中心。当時、日本では「イスラムは本来、寛容で平和的だ」という論調もあったが、筆者はそもそも寛容とか平和の定義が、欧米の自由主義とは違うとする。イスラムはアッラーの絶対的優位による支配が信仰の基礎らしい。イスラムと非イスラムの対等な共存もありえないと。立ちはだかる価値観の壁。私にはおそらくその価値観は共有できないが、正しく知っておきたいとは思う。2020/01/14
おおた
13
最近のニュースに触れているとイスラーム世界には虐げる人と虐げられる人しかいないのではと感じがち。だけど現場で見て感じてきた著者の論説を読むと、彼らも人であり、笑い泣きだらける。そんな当然なことがニュースだけでは伝わってこない。本書は新聞に掲載された論考が多いので、難解な文章はあまりない。イスラーム教の唯一絶対神という観点は、多様性を尊び相対的な価値観を受け入れようとする欧米・アジア各国と観点が異なるゆえに、問題も大きくなりがちなので、双方の歩み寄りを考えていくためにも本書のような本はもっと読まれていい。2018/02/10