出版社内容情報
万葉集は誤って理解されてきた――。庶民の素朴な生活感情を素直に表現した国民歌集などではない。山上憶良は家族思いで大伴旅人は大酒飲みというイメージには問題がある。性の歌もある。都市生活が営まれ、郊外も誕生していた。平安文学とのあいだに断絶はない。……従来の万葉観を大胆にくつがえし、最古の古典に新たな輝きを与える。
内容説明
万葉集は誤って理解されてきた―。庶民の素朴な生活感情を素直に表現した国民歌集などではない。山上憶良は家族思いで大伴旅人は大酒飲みというイメージには問題がある。性の歌もある。都市生活が営まれ、郊外も誕生していた。平安文学とのあいだに断絶はない。…従来の万葉観を大胆にくつがえし、最古の古典に新たな輝きを与える。
目次
人麻呂は妻の死に泣いたのか
額田王と天武天皇は不倫の関係か
山上憶良は家族思いだったか
大伴旅人は大酒飲みか
逢引の夜には月が出ている
妹が妻や恋人の意となるわけは
枕詞にも意味がある
序詞の不思議を解く
挽歌は異常死の死者を悼む歌である
旅の歌には美意識がある
斎藤茂吉の解釈にも問題はある
方言はなぜ東歌と防人歌にかぎられるのか
性の笑いもある
日本には古代から郊外があった
万葉集から平安文学へ
著者等紹介
古橋信孝[フルハシノブヨシ]
1943(昭和18)年東京生まれ。国文学者。武蔵大学教授。東京大学文学部国文科卒業
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感想・レビュー
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かふ
14
図書館本。『芭蕉・蕪村 春夏秋冬を詠む 秋冬編』の推薦図書だったのか?気になったので読んでみた。和歌の成り立ちが呪術にあるということ。それが色濃く現れているのが『万葉集』で徐々に呪術性が消えて行くのが『古今和歌集』であるのだ。それは突然変わったというより、徐々に、例えば呪術が恋占となり、相聞歌が恋の歌となっていくように。旅の歌がその土地を称えること(天皇の国見もその一部かもしれない)と残してきた妻を想う気持ちだったのだが、最初は旅の安全を祈る父母の祈り的なものが、防人のうたにあるという。2022/11/03
うえ
8
日本には古代から郊外があった「春日野に時雨ふる見ゆ明日よりは黄葉(もみち)挿頭さむ高円の山」…80年代の後半、万葉集の巻八や巻十に出てくるこうした季節の到来を感受する歌を読んでいて、私はどうして春日、春日野ばかりがこうも出てくるのかと不思議に思った…都市の人々は平城京の周辺に季節を感じ、そこに出かけて、花や黄葉を称え、それらの季節のものを頭に挿していた…さらには、若者が誘い合って春日野に打毬(蹴鞠?)に出かけるという左注のついた歌もあった。これはもう、われわれのいう郊外と同じではないか。」2021/05/17
しろ
8
☆5 レポートのために読んでみたけど、なかなか読める。全然万葉集を知らなくても、文学論や解説を読むだけでも面白かったりする。でも、こういうのにありがちな作者の自己中感は否めない。しょうがないとはいえ、推論に推論を重ねたのちに最後だけ断言されても困る。著者の言葉もそうだが、最後まで謙虚に臨んでほしい。それでないならもっととんでもない論理とかを見せてほしい。歴史などの解釈はいかようにもなるというのは面白いが、そこに作者のミスや記述者のミスはないと、棚にあげられるのか。一つ二つの証拠では分からないと思った。2011/01/27
田中峰和
4
令和の出典が万葉集とのことなので読んでみた。著者によるとこの歌集は、庶民の素朴な生活感情を素直に表現したものなどではないらしい。例えば、山上憶良は家族を想う歌を多く残したが、だからと言って彼が単純なマイホーム・パパだったというわけではない。日本霊異記の説話をみると、奈良時代は都市的な生活が始まったことで家族の危機が生まれたことがわかる。政治家であった憶良が、家族の崩壊という新たな社会問題を踏まえ、家族の情愛を歌に詠んだ理由も納得できる。無文字の時代の万葉仮名で表現された歌を読むと、仮名の発明に感謝する。2019/05/09
miyuki
2
近代以降の万葉集の読み方とは別の方向で万葉集の読み方が存在する指摘すると指摘する著者の本。著者による同じ傾向の本はいくつかあるが、この本がもっとも読みやすいと思われる。終章のごとく、万葉集と平安文学をつなげる視点で語る人は少ないので、大きい意味での日本古典文学の入門として万葉集から入ろうと考えている人には、かなりオススメかと思う。2016/07/04