出版社内容情報
異なる価値観を持つ人びとが共生する多様性社会を実現する方法とは。偏屈なピューリタンが生み出した「キレイごとぬきの政治哲学」。
内容説明
「わたしはあなたの意見に反対だが、あなたがそれを主張する権利は命をかけて守る」―こんなユートピア的な寛容社会は本当に実現可能なのか。不寛容だった植民地時代のアメリカで、異なる価値観を持つ人びとが暮らす多様性社会を築いた偏屈なピューリタンの苦闘から、そのしたたかな共存の哲学を読み解く。現代でこそ役に立つ「キレイごとぬきの政治倫理」。
目次
第1章 虚像と実像のピューリタン
第2章 中世の寛容論
第3章 異議申し立ての伝統
第4章 政権当局とのせめぎ合い
第5章 誤れる良心と愚行権
第6章 建設者の苦悩
第7章 異形者の偉業
著者等紹介
森本あんり[モリモトアンリ]
1956年、神奈川県生まれ。国際基督教大学(ICU)人文科学科教授。国際基督教大学人文科学科卒。東京神学大学大学院を経て、プリンストン神学大学院博士課程修了。プリンストンやバークレーで客員教授を務める。専攻は神学・宗教学(本データはこの書籍が刊行された当時に掲載されていたものです)
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感想・レビュー
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trazom
104
「不寛容」は現代社会を象徴するキーワードの一つだと思う。だからこの本に取り組んだけれど、正直、著者の意図が読み取れずに戸惑う自分がある。英国国教会の不寛容に反発してアメリカに移ったのに新大陸では現地人や他宗派へ迫害を加えたピューリタンの不寛容、寛容を強制するのも不寛容など、パラドックスとしての不寛容の根深さを実感する。著者は、ロジャー・ウィリアムズの「相手を理解しようとするのではなく、最低限の礼節で対応するのが寛容だ」という言葉を紹介するが、寛容ってその程度のものだったのかと肩透かしを食った気持ちになる。2021/04/18
パトラッシュ
87
新型コロナと経済不況に沈むアメリカで、アジア系への憎悪犯罪が続発している。寛容を旨とするはずの国がと訝る向きもあったが、実際には植民地時代から不寛容な宗教的差別が当然だったとは歴史に詳しい人でも初耳だろう。数知れぬ争いを積み重ねる中で「より小さな悪」としての寛容が生まれていくプロセスは、不愉快な隣人と共存するために理想と現実の折り合いをつける難しさを教えてくれる。そんな寛容を拒み不寛容こそ正しいと信じる人びとが自分の理想を貫こうとするのがトランプ主義者ならば、日本でもトランプへの同調者が多い理由がわかる。2021/03/30
あらたん
59
反知性主義から続けて読了。こちらも難しいがとても刺激的だった。植民地時代のアメリカを舞台にロジャーウィリアムス(初めて知ったがとても魅力的な人物)という神学者に焦点を当て、現代に繋がる寛容の精神がどのように育まれてきたのかを論じている。 寛容とは「悪」を認める姿勢であるという指摘に鱗が落ちた。決して気持ち良いものではないが、どんなに理解できない人に対しても礼節を持ったコミュニケーションを忘れないようにしたい。自分も決して完璧ではないのだから。2024/04/29
ネギっ子gen
57
不寛容がまかり通った植民地時代の米国で、「良心の自由」を掲げ、異なる価値観を持つ人々が暮らす多様性社会の確立を説いたロジャー・ウィリアムズの考え方を、『反知性主義』著者のICU教授が読み解く。<不寛容なしに寛容はあり得ない。不寛容は、寛容を成立させるための内在的な根拠である。従来の寛容論がいずれも何となく「良い子のお題目」のように聞こえてしまうのは、この点を直視してこなかったからである/寛容に必ず内包されている不寛容を主題化することで、真の寛容の所在を明示する>試みが本書だと。rorsさん、読みました!⇒2022/07/05
こばまり
45
「寛容」のような他者を全肯定する言葉が、どうしてトランプ前大統領のような人物と結び付くのかと全く誤解していた私には目鱗本だった。寛容の前提に不寛容がある。政教分離、多様性を認める思想がウィリアムズのような強烈な人物に端を発している面白さ。2023/07/10