内容説明
小説家夏目漱石の決定的実像とは何か。深い洞察とゆたかな描写で、著者は誕生から晩年までの漱石を描き切った。しかし第五部は、『行人』『心』『道草』を鮮やかに論じながら、ついに未完に終わる。評伝の終章を中心に、桶谷秀昭氏の懇切にして緻密な解説を巻末に収録。
目次
大正元年九月
孤独感
ヴェロナールの眠り
『銀の匙』
『行人』の完結
「閑来放鶴図」
『心』と「先生の遺書」
欧州大動乱
自費出版
「不愉快」と「不安」と「自己本位」〔ほか〕
感想・レビュー
※以下の感想・レビューは、株式会社ブックウォーカーの提供する「読書メーター」によるものです。
Gen Kato
2
大患ののち、いったん生命を肯定したかにみえた漱石が、再び病んで自らを追い込んでいく。現代から過去を見たのではわからない、あくまで明治の同時代感覚をもって描いた傑作中の傑作評論。未完に終わったのも漱石のそれに倣ったとみるべきか…2015/04/08
讃壽鐵朗
1
江藤淳は文芸評論家ではあるが、一方明治時代の政治、人物等に関する著作も多い。この二つの要素が上手くかみ合って、正に題名「漱石とその時代」が物語るように、漱石の生き様及び作品の評論とその時代の動きが並列的に述べられている。つまり、読者は漱石の人物、作品を理解すると共に、明治という時代の流れをもくみ取ることが出来るわけである。ただし、一般の読者には文芸評論的な部分はかなり難解である。
ラグ
0
前回は必要な論の箇所だけを各巻飛び飛びに拾っていたのだけど、今回は五冊ちゃんと初めから全部読み直した。偉大な国民作家漱石ではなく、生い立ち以前から私生活、周囲を含めて彼の淋しく哀れともいえる側面が様々な歴史資料と共に五巻に渡って細かく知らしめされる。時代の中にテクストを置き直し、歴史という規模の中において漱石を見る江藤のより密接で詳細な視点、その上での各作品や講演録の考察は単に読み物としても十分興味深く面白いと思える。明暗直前で未完となってしまったのが惜しまれる。2015/06/13
YIN
0
教材研究のために読んだが新たな知識も多く。いわゆる「修善寺の大患」以後の彼、つまり40代の漱石は、闘病を続けながら小説を書いた。漱石はこんな奥さんを持ったからこそ漱石だったのだな、というくらい奥さんが印象に残った。2022/01/01