内容説明
ドストエフスキーを本格的に愉しむために。目立たぬところに仕掛けられた洒落、笑い、語呂合せ、言葉の多義性の遊び、パロディ精神。スリリングに種明かしする作品の舞台裏。
目次
「謎とき」とは?
精巧なからくり装置
666の秘密
パロディとダブル・イメージ
ペテルブルグは地獄の都市
ロジオン・ラスコーリニコフ=割崎英雄
「ノアの方舟」の行方
「罰」とは何か
ロシアの魔女
性の生贄
ソーニャの愛と肉体
万人が滅び去る夢
人間と神と祈り
13の数と「復活」神話
感想・レビュー
※以下の感想・レビューは、株式会社ブックウォーカーの提供する「読書メーター」によるものです。
aika
45
ドストエフスキーは言の葉に愛された人だと感じると同時に、これほどまでギミックを仕掛けた比類なきその執念に絶句します。ロシア語はもちろん、正教や神話にも精通した著者が登場人物名を分析するお馴染みの手法で、主人公ラスコーリニコフを666の数字を秘めた悪魔とする一方で、故郷の由来から堕天使になぞらえた点には釘付けでした。ソーニャの衣服の分析で、文豪が傷ついた彼女に慈愛の衣をくるませた点に着目した江川先生自身の眼差しに、優しさを感じます。謎ときという題名の通り、本編を読んでいる時と同じくらいスリリングでした。2021/07/19
カブトムシ
41
私がまだ20代の頃に、野尻湖畔でこの著者の講演をお聴きしました。私は夏休みの研修義務で出掛けました。私が「罪と罰」のダイジェストを読んだのは、それより大分後でした。江川卓さんの訳でした。ドストエフスキー「罪と罰」には、何人もの訳者がいると思います。その時の講演は、この「謎とき『罪と罰』」を出版する前だったか?40年も前の講演で、忘れてしまいました。内容は、登場人物のスメルジャコフなどの意味とかで、ドストエフスキーの作品の登場人物には、意味があってスメルジャコフは、匂いに関係した人物だったか?忘れました。
aika
36
ラスコーリニコフの名前に666、悪魔の意味が隠れていることは覚えていましたが、他の神話体系から英雄が導き出されることは忘れていました。江川先生の卓越した言葉と正教への理解に感嘆です。生きることと愛することが不可分で、それらを取り戻すためにとった行動によって、愛することを奪われるという地獄に閉じ込められた主人公。新しいエルサレムから拒絶されたマルメラードフ一家をはじめとする、現実社会からもキリスト教世界からも疎外された人々を救うために、我が身に引き受けたラスコーリニコフの十字架の重さをひしひしと感じます。2023/09/21
James Hayashi
32
タイトルからは罪と罰を読むにあたり、予備知識を得るか解説書もしくは副読本かと思ったが、かなり難解でこれ一つで専門書といってもいい。大学などの講義で罪と罰を読み解くなら、お得な書かもしれないが、あらすじも知らず、社会、時代的背景、言語、宗教などに踏み込むため難しかった。読売文学賞受賞作。2020/05/11
たまご
32
すごいの一言.筆者のロシア語の感性,当時のロシア事情の博覧強記ぶり(探しまくるオタクぶり?)に圧倒されまくり.でも文章はユーモラスで楽しいです♬ 人物名,構想はもとより,一つ一つの言葉の選択までこの短期間でやった(と思われてもおかしくない)ドストエフスキー,あなたの非凡人ぶりたるや… 本編を読んで「罪」と「罰」がわからなかったのですが,「罰」はこの本でそうかー,と. 「罪」を迷いなく問題視しない主人公.エピローグで改悛?,でもそうみえんと思ってたけど,やっぱし.ドストエフスキーも革命家なんですね.2017/09/17