出版社内容情報
内戦の街で出会った若い男女。戦火から逃れるため二人は「扉」を目指す。それは自由への出口だったが――全く新しい同時代移民文学。
内容説明
破壊された故郷を脱出した若い恋人ふたりの前に現れる様々な岐路。新天地を求めるその旅の行方は―。あなたの隣にいる移民たちの物語。ロサンゼルス・タイムズ文学賞。
著者等紹介
ハミッド,モーシン[ハミッド,モーシン] [Hamid,Mohsin]
1971年、パキスタン・ラホール生れ。小学校時代の一時期をアメリカで過ごし、のちにパキスタンに戻るが、再びアメリカにわたってプリンストン大学およびハーヴァード大学ロースクールに学ぶ。卒業後、マッキンゼー・アンド・カンパニーに勤務する傍ら執筆をつづけ、2000年に小説Moth Smokeでデビュー。2007年発表のThe Reluctant Fundamentalist(邦題『コウモリの見た夢』)がブッカー賞の最終候補に残る。現在はラホールとロンドンとニューヨークを行き来しつつ創作を続け、著名な新聞や雑誌に政治や芸術に関するエッセイを寄稿している
藤井光[フジイヒカル]
1980年大阪生れ。同志社大学教授。2017年、アンソニー・ドーア『すべての見えない光』で日本翻訳大賞を受賞(本データはこの書籍が刊行された当時に掲載されていたものです)
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感想・レビュー
※以下の感想・レビューは、株式会社ブックウォーカーの提供する「読書メーター」によるものです。
南雲吾朗
66
コントロール不能な「どこでもドア」が世界中に無作為に置かれた状態の物語り。突然、難民が現れて、居住区を占拠しだしたら?私たちは、廃絶しようとするだろうか?それとも、難民も含めてうまく社会が回るように、彼らに職場を用意し、居住領域を設けるのだろうか?あらゆる人々、あらゆる宗教、習慣が混じり合う。いずれにせよ日常は崩壊し、混沌とした世界になるのだろう。文明と平和は、距離を隔てることで保たれているという事を実感するであろう。この小説は二人の若者に焦点をあてて書いてあるが、もっと深く考えさせられた。2020/10/12
ちえ
48
ナディアとサイードは中東を思わせる街で知りあい恋人同士になるが内戦で街は荒廃、自由が制限され命の危険も感じるようになり…「扉」、SNS、、監視カメラ、ドローン…寓話?SF?設定に戸惑いながらも、読みながら二人と共に「扉」を抜け新しい土地へ。「扉」を通って世界のあちこちを移動しながら、常に両足が地面から浮いているような違和感。それは私にとって移民や難民というどこか遠く感じていた人達の事を想像させられるものだった。旅を続ける間に二人の関係性も変化していく。最後の章の美しさと切なさ。↓2020/01/13
ヘラジカ
47
邦訳を待ち望んでいた作品。短いながら濃厚で煌めくような傑作。受賞歴や批評に違わぬ素晴らしい小説だった。終始貫徹するあまりに抑えられた文章が印象的。現代社会を誇張して生み出された「扉」の寓話的存在と、徹底してロマンチシズムを排した痛いほどリアリスティックな生活が絶妙に混ざり合って斬新な読書感だった。日本のサブジャンルで言うと"セカイ系"ということになるのだろうか。この強烈なディストピア世界で描かれるのが、単純な上手くいかない人間関係であることには感心させられた。ラストのなんとも言えない切なさも胸に沁みた。2019/12/22
白玉あずき
46
「コウモリの見た夢」よりはずっと複雑で解釈が難しくはなっている。あの名翻訳家藤井光氏が訳出し、解説まで書いておられて世評も高い感じなのだが。危険な母国を脱出した移民達の新天地での文化摩擦、故国の人間関係の喪失、経済的苦労、受け入れ側の困難、散々いろんな作品が世に出ているので、特にこの作品で心動かされることも無く・・・・私に読解力が無いのか、すれっからしになったのか。ちょっと残念な読後感。西への扉があちこちに出現するという設定で移民の脱出の苦労と危険を描かないなら、その分他の何かに焦点を当てて欲しかった。2020/03/09
sayan
44
移民・難民文学と称される。著者がトニ・モリスン(「他者の起源」著)の教え子である点に興味を持った。本書はイスラム世界の話だが、主人公2名の行動・発言はとても西洋的だが、同時に哀愁感漂う。だからこそ描かれる街並みが個人的には仕事で行くベイルートの穏やかな時、デモが発生した直近の映像や息遣いがオーバーラップする。本書はSFにもカテゴライズされるが、主人公の立ち振る舞い他は、ある意味カリフォルニア的だ。個人の自由に対してカロリン・エムケの作品に通ずる社会統合や排斥主義に直面する彼らの考え方や行動が読みどころだ。2020/02/23
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