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出版社内容情報
夫を亡くし21年ぶりに勤めに出たノーラ。慎ましく不器用で頑固な主婦が、生きる歓びを見出してゆく姿を母に重ねて描く自伝的長篇。
内容説明
教師の夫を突然亡くしたアイルランドの専業主婦、ノーラ・ウェブスター、46歳。娘二人はすでに家を離れたが、息子二人はまだ手のかかる年頃だ。事務員として21年ぶりに復職したノーラは、かつての同僚の嫌がらせにもめげず、確かな仕事ぶりで足場を築いてゆく。娘たちには煙たがられ、息子たちともぶつかりがちだが、ひとが思うほど頑固で気難しいわけではない。髪を染め、組合活動に共鳴し、一大決心をしてステレオを買い、やがては歌の才能まで花開かせる。自分を立て直し、新たな生きる歓びを見出してゆくノーラの3年。丹念に描かれた日常生活の細部を辿るうち、思いがけない大きな感動が押し寄せる。アイルランドを代表する作家が母の姿を投影した自伝的長篇。
著者等紹介
トビーン,コルム[トビーン,コルム] [T´oib´in,Colm]
1955年、アイルランド南東部ウェックスフォード州生まれ。ユニバーシティ・カレッジ・ダブリンで歴史と英文学を学び、ジャーナリストを経て小説を発表。アメリカのコロンビア大学で教鞭を執っている
栩木伸明[トチギノブアキ]
1958年、東京生まれ。早稲田大学教授。専門はアイルランド文学・文化(本データはこの書籍が刊行された当時に掲載されていたものです)
※書籍に掲載されている著者及び編者、訳者、監修者、イラストレーターなどの紹介情報です。
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感想・レビュー
※以下の感想・レビューは、株式会社ブックウォーカーの提供する「読書メーター」によるものです。
アン
106
アイルランドの田舎町に暮らすノーラ46歳。教師で信頼を集めた夫に先立たれた彼女が子供と共に様々な問題と向き合い、前へ踏み出していく過程が丁寧に綴られ、シンプルなストーリーながら味わいがあります。喪失感や忘れられない想い、仕事の復帰と心の重荷、子供の教育や成長による葛藤、手を差し伸べてくれる親戚との折り合い…。彼女が新しいことを学び、人生の歓びを見出し、自由と満ち足りた気持ちを得る場面は美しく心が惹きつけられます。家族を心から愛し、ベストを尽くそうとするノーラに息子が微笑みかける愛らしさ。心がじんわりと。 2021/02/09
ケイ
91
私は、ノーラが自分の母だったら嫌だなと思う。 だからだろうか、中盤くらいから、読んでいてため息が出てきた。物事は見方ひとつでもう少し良くもなるのに。ほかの女性を見る時の視線も素直でなく思える。そして、作者は男性なのか…。2018/02/10
NAO
74
夫に先立たれた女性が自分らしく生き始めるまでが描かれている。元来愛想がよいほうではなく、寡黙だがときには強硬な姿勢を見せ家族を戸惑わせるノーラにとって、狭い田舎町暮らしは何かと生きにくい。夫が亡くなってから、ノーラは、家族みんなに疎まれているように感じ、ひどく孤独を感じることがある。だが、愛する人を亡くしたことで傷つき家族が一人欠けた生活に慣れることができず戸惑っているのはノーラだけではない。ノーラと4人の子どもたちの3年間は、暗く長いトンネルの中のようだ。だが、そんな彼らも徐々に落ち着きを取り戻し、⇒2021/10/25
naoっぴ
69
じっくりと読ませる物語だった。46歳で夫に先立たれ、どう日々を過ごしていこうかと試行錯誤する等身大の女性の姿。わが子との向き合い方、母でも妻でもないひとりの人間としての自分と世間の目との間にある葛藤など、ノーラの感じたことは私の中にもあると気づかされ何度もページが止まる。丁寧に綴られる日常を背景に、“夫の横にいる妻”から踏み出し、新しい自分を見いだしていくノーラの心の自立に深く共感した。ノーラの心の奥には手に負えないほど多くの悲しみが積もっていたのだろうな。いつまでも読んでいたい本だった。2019/06/21
星落秋風五丈原
38
著者の『ブルックリン』を「朝の連続ドラマ」と評したが、こちらもやはり朝の連ドラ向き題材だ。「誰々の妻」という肩書きでしか誰も自分を見ていなかった日常が、いきなり何もかも自分が先に立って決めなければならない日々になる。きちんと切り替えて、周囲からもその判断を褒められるソフトランディングなドラマにせず、どうしても自分の物差しで相手を判断しがちになり、言葉に出てこない相手の思惑まで考え込んで、余計な気をもんだりするノ―ラのより道迷い道行きどまりの三年間が綴られる。2017/12/23