内容説明
詠爾は島を出た。東京の混沌に、まだ見ぬ父を探すため。新宿の高層ビル群に惑い、たぐり寄せては切れる細い糸に絶望し、ふとした出会いに心ときめかせる―。饒舌にして錯綜した彼の語りの果てに明かされるのは双子の姉の死、心を病む母の存在。果たして詠爾は、父と巡りあえるのか?イギリス若手作家ベスト20選出、ブッカー賞連続最終候補の気鋭が放つ、疾走と裏切り、思慕と夢幻の物語。哀切なるこの世界に捧げる鎮魂の歌。
感想・レビュー
※以下の感想・レビューは、株式会社ブックウォーカーの提供する「読書メーター」によるものです。
遥かなる想い
138
イギリス作家による 東京を舞台にした物語である。父を捜す 三宅詠爾の饒舌な語りが 村上春樹的で 心地良い。 妄想と夢と記憶が 満載の 幻想的な 世界が 繰り広げられる。 一体 誰が 実在し、何が 夢で 何が 本当なのか? 幾重にも 語れるシーンと 過去の追憶 …不思議な迷宮に 紛れ込む感覚は なぜか 嬉しい…そんな読後感に 浸れる 作品だった。2019/09/20
優希
81
親探しの中で妄想、記憶、死などが盛り込まれ、入れ子になった小説形態が読み応えを感じさせます。饒舌すぎる語りが日本の代表都市東京を幻想の色で染め上げていくようでした。畳み掛ける断片は日本人が書けない東京を「トウキョウ」として描いています。現代社会の不可解な迷宮に迷い込む快感がトウキョウにはよく似合う。日本を起点にすることで世界の全てが内包された物語を描くことに成功していると思います。物語は一歩踏み込むと同時に新たな道へと続くのです。『ノルウェイの森』とハルキ・ムラカミのオマージュの夢幻が花開いていました。2015/12/28
春ドーナツ
18
文庫化されていないので、それほど評判にはならなかったのかも知れない。けれども当時、一行一行がその一文が、それらを構成する単語のひとつひとつが宝石であり魔法であり、章を追うごとにめくるめく快楽は屹立して氷山はずんずんせりあがった。酔いしれて、ふらふらになりながら充血した眼でむさぼるように読みふけった熱い記憶が、XX年経た現在でもきちんと残っている。こういう本にはなかなか出会えない。まさに一期一会だった。そして私は喫茶店で本を書見台にセットして再び開く。マスクの毛羽が鼻の穴を拷問のようにくすぐることも遠のく。2020/06/14
スミス市松
16
表徴の帝国、日本。その代表である都市、東京。あらゆる幻想を内包する巨大な夢の中で、まだ見ぬ父を追って三宅詠爾は走り続ける。小説内小説や寓話や特攻隊員の手記、キタノ映画的ヤクザから厨二的妄想に至るあらゆる物語の断片がぶちこまれ、短文で一気呵成に畳みかけていく文体はまさしく快楽都市トウキョウそのものだ。日本人が書けないニッポンの小説がここにはある。私が生まれ育ち愛し憎んだ都市とは、実は幻想的カタルシスに満ち溢れた夢の国トウキョウだったのだ。「九番目の夢の意味はあらゆる意味が死に絶え消滅した後に始まる……」。2010/12/23
志ん魚
7
ノルウェイの森とコインロッカーベイビーズとトレインスポッティングをシェイクして、タランティーノが演出したような(笑)。でも迷宮的に物語を生成し、推進していく能力は並々ならぬものを感じます。ポップで疾走感のある文体も慣れると心地よくなってきて、長いのに最初から最後までとても楽しめました。次はあまり「オマージュ」とか意識してない作品を読んでみたいな。。。2010/06/23