内容説明
恋人に去られた孤独なヴィクトルは、憂鬱症のペンギンと暮らす売れない小説家。生活のために新聞の死亡記事を書く仕事を始めたが、そのうちまだ生きている大物政治家や財界人や軍人たちの「追悼記事」をあらかじめ書いておく仕事を頼まれ、やがてその大物たちが次々に死んでいく。舞台はソ連崩壊後の新生国家ウクライナの首都キエフ。ヴィクトルの身辺にも不穏な影がちらつく。そしてペンギンの運命は…。欧米各国で翻訳され絶大な賞賛と人気を得た、不条理で物語にみちた長編小説。
著者等紹介
クルコフ,アンドレイ[クルコフ,アンドレイ][Курков,Андрей]
ウクライナのロシア語作家。1961年レニングラード(現サンクト・ペテルブルグ)に生まれ、3歳のとき家族でキエフに移る。キエフ外国語大学卒業。出版社勤務、オデッサでの兵役を経て、小説、シナリオ、児童書を書いていたが、長らく日の目を見なかった。クルコフの名を一躍有名にしたのが『ペンギンの憂鬱』(1996)である。約20ヵ国語に訳され、国際的なベストセラーとなる。キエフ在住。妻はイギリス人
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感想・レビュー
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ヴェネツィア
622
この小説のプロットにとって、ペンギンは必要か。終盤では一応の役割はある。しかし、それまではプロットの一端をも背負うことはない。にもかかわらず、ペンギンは不可欠の存在なのだ。ペンギンなくして、この小説世界が成立しないくらいに。ヴィクトルとペンギンの互いに孤独な生。そして、ソーニャやニーナとの疑似家族。あるいは、編集長との、そしてまた警官のセルゲイとの、はたまた謎の男ミーシャとの関係性も距離もまた希薄だ。ヴィクトルにしだいに危機が迫るサスペンスでもある。にもかかわらず、飄々とした軽快さを持つ不思議な小説だ。2016/12/03
遥かなる想い
384
ソ連崩壊後のウクライナを 舞台に、新聞の死亡記事を 書いて暮らすヴィクトルと ペンギンの奇妙な日々を 描く。 一体何が起こっているのか? 全編に漂う不穏な空気と、 ペンギンとの生活との アンバランスさが、逆に この「社会の憂鬱さ」を 際立たせている。 ニーナとソーニャ、そして ペンギンとの家族ごっこの裏で秘かに進行する 真実とは何なのか… ペンギン「ミーシャ」の存在と、「十字架の意味」… この対比が 奇妙な緊張感を読者に 与えながら物語は進んで… 最後は何故か微笑んでしまう、 不条理で奇妙な物語だった。2015/07/18
青乃108号
309
鬱病のペンギンと暮らす売れない男性作家の物語。彼は新聞社に原稿を持ち込み、「ある仕事」を請ける。編集長曰く「十字架」という原稿を書き続ける仕事。いつの間にやら4歳の少女とベビーシッターが「疑似家族」に加わって、不穏な影が見え隠れしながらも安定した生活が、将来が見え始めた時に「不幸」はやって来る。思わぬ形で。ここで作者は策略を巡らせており、おそらく大多数の読み手は「最悪」な展開を予想する。が、そうはならない。さらなる不幸へと物語が加速し不穏な影の正体が明らかになった時、男の取った行動は。完璧なオチに唸る。2025/04/10
pino
162
悪夢を見た。正体のみえない人に追われるハード系で、ペンギンの登場なしの空恐ろしさだ。本当に嫌になる。さて私が持ってるソ連崩壊前後の情勢についての知識量は、マッチ箱の引き出し程度のショボさ。ニーナの振る舞いから当時の記事を思い出す。「今や乙女はドンファンの手に簡単に落ちている」と。一方、ヴィクトルは付き纏う影を遠ざけるように次々と仕事を受ける。敢えて感覚を麻痺させているのか。一体、人も金もどこから現れどこへ消えるのか。物語の設定を楽しみつつ闇の世界に身震いする。救いは、ペンギンの研究に没頭した老人の尊さ。 2015/07/28
まふ
156
ウクライナ作家のロシア語による物語。1990年代、ウクライナが独立して間もない不安定な時期に、主人公で作家のヴィクトルが新聞社の編集長から<まだ死なない有名人の追悼文>のストック作成を依頼され編集長の好評を得る。彼はペンギンを動物園から譲り受けて飼育しているが、友人が幼い女の子を残したまま死んでしまったため、その養育係となった警察官の姪と疑似家族のような生活をつづける…。ウーン、ふしぎだ、と思いながら読んでいくと、やはりこれしかない、と思われる終わり方となった。ブラック・コメディの逸品である。G1000。2023/09/12
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