内容説明
ケニア沖の孤島でひとり貝を拾い、静かに暮らす盲目の老貝類学者。だが、迷い込んできた女性の病を偶然貝で癒してしまったために、人々が島に押し寄せて…。死者の甘美な記憶を、生者へと媒介する能力を持つ女性を妻としたハンター。引っ越しした海辺の町で、二度と会うことのない少年に出会った少女…。淡々とした筆致で、美しい自然と、孤独ではあっても希望と可能性を忘れない人間の姿を鮮やかに切り取った「心に沁みいる」全八篇。「ハンターの妻」でO・ヘンリー賞を受賞するなど、各賞を受賞した新鋭によるデビュー短篇集。
著者等紹介
ドーア,アンソニー[ドーア,アンソニー][Doerr,Anthony]
1973年、オハイオ州クリーヴランド生まれ。オハイオ州立大学大学院の創作科出身。『アトランティック・マンスリー』、『パリス・レビュー』、『ゾエトロープ』などに作品を発表し、本書に収録された「ハンターの妻」でO・ヘンリー賞を受賞した。デビュー短篇集である『シェル・コレクター』は、数多くの賞に輝き、『ニューヨーク・タイムズ』や『パブリッシャーズ・ウィークリー』による「Notable Book of the Year」(その一年で最も注目すべき作品)にも選ばれた。現在はフェローとしてプリンストン大学に在籍
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感想・レビュー
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ちなぽむ and ぽむの助 @ 休止中
183
水面に無数に反射する星の静けさ。ミルクを溶かした月の灯、耳がきこえなくなったのか、何の音もしない。でも肌でかんじるたくさんの生きものの気配。敷き積もる落ち葉の息遣い、そこにひそやかに動く虫たち、声をひそめ眠る鳥の寝息。少しずつ冬の匂いが満ちる。 私たちは敬われて罵倒されて突然賞賛されてまた突然略奪されて、そして生きて生きて生きて生きて死んでいく。 自然はあまりにも美しく残酷で、無数の生きるものたちがそこにあって、みんな等しく死に向かって生きていく。そのことにこんなにも心が震えるのは何故なんだろう。2019/10/20
ケイ
150
短編集。表題作の「シェルコレクター」が一番心に残る。人の世は移ろい、人の心も移ろう。愛していた身近な人は帰って来ず、大切に思っていても離れているほど関係性はかわる。大切にしていたものを、他の人がどうして同じように大切に扱ってくれないのか、悲しくなる。珊瑚なんて、貝殻なんて、すぐに壊れてしまうのに。大切している物を壊すモーターボートの音も、自分を助けに来る時には、助けに来るやさしい人が乗っている時には、その響きは希望となり暖かい気持ちを生みだす。2018/12/09
遥かなる想い
131
アメリカ作家による 心に染みる短編集である。 自然の中で生きる 人たちの 超自然的な力が 共通のテーマなのだろう。 どの作品も 不可思議な 心の移ろいを 哀しげに描く。 あり得ない設定の中に さりげなく 真実を 盛り込んで…著者の描きたかった ものは 丹念に 描かれている…そんな短編集だった。2019/07/23
雪うさぎ
131
美と喪失は同じものであり、それが世界を秩序づける。冬眠する動物の脈動、疾走する娘の息づかい、地中に埋められたクジラの心臓。それらはやがて大地と同化して、森の歌となっていく。喪失することによって、新たな命が芽吹き、新しい可能性が開かれる。毒と薬、愛と失望、出会いと別れ、自然と文明。対比するかに見えるものも、実は細い線で隔てられているだけ。その線は儚く、ときには存在しない。作家は世界を巡り、写真家のような観察眼で、自然とその土地に住む人や生き物の営みを静謐な文章で写し撮る。命の鼓動が鮮明に伝わってきた。2016/01/21
ちゃちゃ
114
己の内なる鼓動を感じながら生きる命の輝き。放たれる光は、大自然の美しさと非情さを、そして、その中で生きる人間の無力さを写し出す。時には抑えようもない衝動に押し流され、時にはそれに抗おうとして生きる人間の哀しさと愛おしさ。内なる自然との対話が、真に己れの求めるものに導き、やがて光を見いだすことへと繋がる。8編の短編は、生の痛みと喜び、孤独と再生を、簡潔かつ繊細な筆致で写し取る。その切れ味の鋭さと豊かさ、完成度の高さに圧倒される。どの短編も、人間の本質に迫る素晴らしい短編集だった。2019/05/18