内容説明
妻が引き起こした嬰児誘拐事件によって退職を迫られている歴史教師が、生徒たちに、生まれ故郷フェンズについて語りはじめる。イングランド東部のこの沼沢地に刻まれた人と水との闘いの歴史、父方・母方の祖先のこと、少女だった妻との見境ない恋、その思いがけない波紋…。地霊にみちた水郷を舞台に、人間の精神の地下風景を圧倒的筆力で描き出す、ブッカー賞受賞作家の最高傑作。
著者等紹介
スウィフト,グレアム[スウィフト,グレアム][Swift,Graham]
1949年ロンドン生まれ。ケンブリッジ、ヨーク両大学卒。英語教師を経て、80年、The Sweet Shop Ownerで作家デビュー。83年、文芸誌「グランタ」によって、ジュリアン・バーンズ、イアン・マキューアン、サルマン・ラシュディらとともに「イギリス新鋭作家20傑」に選出される。同年刊行の本書『ウォーターランド』で、ガーディアン小説賞、ウィニフレッド・ホルトビー記念賞ほか受賞。96年、『ラストオーダー』でブッカー賞受賞
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感想・レビュー
※以下の感想・レビューは、株式会社ブックウォーカーの提供する「読書メーター」によるものです。
遥かなる想い
187
全編に漂う 水と土と闇の世界が 心地良い。 歴史教師 トム・クリックが語る 沼沢地フェンズ…妻メアリとの不可思議な歴史が 彩りを添える。 奔放なメアリに惹かれた ディックと トムの 兄弟…終始物憂げで 過去と現代が 交錯しながら、話は 沈澱して 停滞する …メアリの心の闇が 印象的な 暗澹たる作品だった。2018/06/06
KAZOO
162
このクレストブックスというシリーズは非常に印象深い作品が多い気がします。アリステア・マクラウドもそうでしたがこの作家の作品もよさそうです。この作品は生徒に自分の知っている歴史のことなどを短い話を話していくのですがそれがまた一つの長い物語になっているような感じです。長い作品ですがあまりそれを感じさせないいい作品です。「最後の注文」も読んでみたくなりました。2017/04/15
ケイ
162
圧倒的な語り。最初はすぐにどうかなりそうなのが、どんどん遡って時代が行ったり来たり。それがたまらない効果をうむ。語り手は歴史の教師。場所はイギリスの田舎町。水をせき止め干拓がなされる。自然に手を入れることは罪? そして教師が語るフランス革命史と街の家族の歴史。干拓で自然を犯した一族達は、末代でそのツケを払わされるのかもしれない。思春期の好奇心と罪は、払う代償が大きすぎた。時折はさまれる大変に生々しいシーンたちに震え上がる。愛情を持たずにはおれなかったディック。きっとメアリもそうだったのだと思う。2017/03/20
まふ
115
高校の歴史教師トム・クリッキーは教科の統合、妻メアリーの嬰児誘拐の罪などで解雇され、彼の最終講義で専門のフランス革命史が語り始められる。と思ったら彼の個人的な歴史、家族の歴史、彼が住んでいる英国のフェンランド(湿地帯)の歴史などが過去と現在を行き来しつつ次々に語られる。運河の水門を護る「家業」を軸に様々な人々の生き様が明らかにされる。殺人事件もあり、全体が重層的な有機的連関を持ち、架台の大きい力作であると思った。G629/1000。2024/10/13
ケイ
111
作者は振り返って書く人だ。「日の名残り」の頃のイシグロと その事について語っているのを読んだことがある。この作品の場合は、主人公の歴史教師が語る。自らの人生を。一族の繁栄とお終りを。ある一族の歴史が展開する湿地帯は、マルケスのマコンドのようでもあり、そう見えばマジックレアリスム的因縁や呪いが一族からは切り離せない。その繁栄と没落は大英帝国のそれとも重なる。一度目に読んだような圧倒的な語りは今回は感じることが出来ず、沈みゆく帝国へのセンチメンタルな感情に覆われているように思った2023/11/03