内容説明
飲んだくれで、愛国主義者で、生活能力のない父。涙にくれる母アンジェラ。空腹と戦い、たくましく生きる子どもたち―1930年代のアイルランド南西部の町リムリックを舞台に、極貧のマコート一家の日々と少年の心の奥を、ユーモアとペーソス溢れる美しい文章で描き上げた珠玉の回想録。
感想・レビュー
※以下の感想・レビューは、株式会社ブックウォーカーの提供する「読書メーター」によるものです。
白のヒメ
47
アイルランド系アメリカ人の少年時代の自伝。飲んべいでどうしようもない父親と、次々と生まれる兄弟姉妹達。食べる物も着る物もない貧しい時代を振り返る物語は、字面だけを見るととても辛くてしんどいのだけれど、そこにこもる著者の感情はとても温かく読んでいるこちらの心を和ませる力がある。どうしてこんなに辛い過去を読ませてもなお、温かい気持ちにさせるのか不明なまま560ページを読み終わる。家族の愛情、希望、若さ、なんとでも解釈は出来るのだろうが、とにかく魅力的な物語だった。実話部門でピュリッツァー賞受賞作品。2017/01/21
シュシュ
33
1930年生まれの著者の自伝。凄まじく極貧の暮らしだが、無垢で、時にユーモラスな少年の語り口に吸い込まれた。大人たちの言葉からはアイルランドの悲しい歴史も思わせる。ピョンピョン先生「いいか、君たち。自分で判断しろ。頭が空っぽでは判断てきんぞ。頭に詰め込め。頭と心に宝物を詰め込め。そこはお前たちだけの宝の倉だ。世界中の誰も手を出せない。お前たちの頭はお前たちの家だ。がらくたを詰め込めば、それは頭の中で腐る。お前たちは貧しいかもしれない。お前たちの靴は破れているかもしれない。だが、お前たちの頭は宮殿だ。」2019/08/06
キムチ
29
するするっと読んでしまいました・・ホントはそんな内容じゃあない本なのですが。何を云っても手垢が付いた言葉しか浮かんでこない。とにかく暗い、貧しい、みすぼらしい、でも少年たちの瞳の輝きが目に浮かぶような、人々の教会へ抱く畏敬の念が息吹として背後に感じられるような作品。木の枝と墓石に止るカラス、朝昼晩と表情を変える父親の顔が印象的でした。謝辞で筆者は女性への賛辞を綴っています。作品を通じて漂う温もりの根源はそれもあるんでしょう。20年以上前、アイルランド映画をいくつか見たはずなのに、頭の中は空っぽ。情けない。2015/05/06
わっぱっぱ
11
世界はアンビバレンスに満ちている。 無職で飲んだくれの父親を責める気持ちと愛する気持ち。窮乏の中でも母であり続けた女性の偉大さと、生まない選択をする女性への共感。避妊と離婚を禁ずるカトリックの教えは貧困の発端でもありながら、一方でどん底に生きる人々の心を確かに救ってもいる。 貧乏=不幸ではない、と飽食時代に生きる私が口にするのは小癪厚顔であるけれど、等式では測ることのできない人生の価値について思いを巡らさずにおれない。名作。2016/05/21
くれの
9
彼の幼少期の純真さ、思春期の健気さにいたたまれなくなりました。華やかさが印象的な欧州でしたが、最底辺の貧困で不衛生な愛国の風土や歴史を本書が初めて教えてくれた気がします。何より教育の大切さの普遍性を感じました。2019/04/01