出版社内容情報
新大陸に線を引け! ときは独立戦争直前、2人の天文学者によるアメリカ測量珍道中が始まる――。世界文学を牽引する天才作家の代表作を渾身の訳で。
内容説明
独立の気運高まる。新大陸についに上陸したメイスンとディクスン。怪しげな人物に奇妙な生物が跋扈するなか、幅8マイルもの境界を設けるべく、森を、山を、切り拓きつつ測量の旅へと乗り出したふたりだったが…。読むものの度肝を抜く想像力と精緻極まりない史実が紡ぎだす微笑・苦笑・爆笑のエピソードの数々。黎明期の新天地に夢を見直す旅の果てとは―?ニューヨーク・タイムズ「ベスト・ブック・オブ・ザ・イヤー」選出全米図書賞最終候補世界的名声を誇る著者の傑作長篇。
著者等紹介
柴田元幸[シバタモトユキ]
1954年生まれ。東京大学教授、翻訳家。ポール・オースター、リチャード・パワーズ、スティーヴ・エリクソン、レベッカ・ブラウン、スティーヴン・ミルハウザー、バリー・ユアグローなどアメリカ現代文学の翻訳多数。自著『生半可な學者』で講談社エッセイ賞、『アメリカン・ナルシス』でサントリー学芸賞を受賞。2008年より文芸誌「モンキービジネス」の責任編集(本データはこの書籍が刊行された当時に掲載されていたものです)
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感想・レビュー
※以下の感想・レビューは、株式会社ブックウォーカーの提供する「読書メーター」によるものです。
兎乃
37
1ヶ月弱かけて、上下巻読了。複雑なプロット、ピンチョンに翻弄されながら、数々の登場者・戯れ歌から量子力学、抜群に面白い"ちゃんこ鍋"に酔いつつ、最後、私は泣いた。ピンチョンは書かねばならなかったのだろう。二人が眼前にする「奴隷制度」。フランス啓蒙思想に学び、理性に基づいて作られたはずの亜米利加で続く苛烈な人種差別。近代を根底から考えさせるこの種の小説が書ける作家は日本にはいないような気がする。まったく余談だけど、映画『ロッキー・ザ・ファイナル』で、最後の対戦相手の名前がメイスン・ディクスンだったそうで。2013/06/10
Ecriture
21
メイスン・ディクスンの測量の旅がときに苦渋に満ちていたように、読了までの道のりは容易いものではなかった(笑)途中でぶん投げる人も多いと聞くが、ぶん投げたっていいんです。訳者の柴田さんもドン・デリーロの『アンダーワールド』を途中で断念したまま読み切っていないと仰ってましたから。文学者でもそういうことはあるもんです。でもこの作品は読み進むのに苦労するほど第三部がグッと来ます。大英帝国の奴隷制を、夢の国においても連鎖させてしまう事業へ加担することを悩み抜いた二人の老いた測量士との別れは実に名残惜しいものです。2011/09/03
若布酒まちゃひこ/びんた
20
というわけで、2016年の読書はピンチョンにはじまりピンチョンに終わりました2016/12/31
ぐうぐう
19
茨の山を予想していた読書は、ある意味正しく、ある意味間違っていた。山は確かに険しかった。しかし、その山に生えていたのは茨ではなく、背丈ほどもあるねこじゃらしだった。肌に触れるたびに笑いを誘発するねこじゃらしを掻き分けながら、幾度も道に迷い、右往左往する読書ではあったけれど、そのひとつひとつのかゆみは、一時期的なものではなく、触れた肌にいつまでも残っていくのだ。コミカルなエピソードの中に、奴隷制度というテーマが横たわり、そこに現在へと繋がるアメリカの姿を浮かび上がらせる手法は、笑いのあとだけに尾を引く。2010/10/18
kazi
18
ディクスン、抗夫上がりの霞目の若造。メイスン、都会気取りの星見人。怪しげな人物に奇妙な生物が跋扈する新大陸で、幅8マイルもの境界を設けるべく、森を山を切り開き進む。微笑、苦笑、爆笑を引き起こす数々のエピソード。亜米利加道中膝栗毛!個人的には新大陸から帰った二人が長い歳月を経て再会するエピソードが白眉かなぁ。上巻冒頭の英国博学犬のエピソードをねじ込んできたりして、こんなん絶対グッとくるわ。ディクスンが奴隷商人から鞭を取り上げてひっぱたくエピソードもよかった。時々間抜けだけど優しくて勇敢なんだよあの北東人は。2020/05/06