内容説明
英国ブッカー賞受賞。瀕死のイギリス人患者と若く美しい看護婦ハナ―砂漠の情景から不倫の愛の行方まで、詩的言語に包まれた物語が静かに溢れ出す…カナダ人作家の最高傑作。時は第二次世界大戦の末期である。場所はフィレンツェの北、トスカーナの山腹に立つサン・ジロラーモ屋敷。ここで、四人の男女が出会う。若いカナダ人の看護婦は、ハナ。…ハナの父親の友人で、泥棒のカラバッジョ。…インド人でシーク教徒のキップは、爆弾処理を専門にする工兵。…そして、ベッドに寝たきりながら、その発揮する強大な求心力に三人をつつんでいるイギリス人患者。…心の内にそれぞれの物語を抱え込んだ四人が、互いに相手の物語を読もうとし、そこにすばらしい小説世界が出現する。
感想・レビュー
※以下の感想・レビューは、株式会社ブックウォーカーの提供する「読書メーター」によるものです。
こーた
162
大戦末期、イタリアの田園には荒れ果てた廃墟がぽつんとあって、傷ついたイギリス人の患者と、かれを世話する若い女のふたりだけが、ひっそりと暮らしている。やってくる女の伯父は元泥棒のスパイで、異人の工兵は爆弾処理の旅の果てにたどり着いた廃墟で、女と恋に落ちる。男と女、男と男、イギリス人と異邦人、白人と白人以外、若者と老人。さまざまな関係と対立、みなに残る戦争の傷痕。患者は何者か、ほんとうにイギリス人なのか。廃墟も傷も、爆弾や砂漠さえも、すべてが美しく描写された、詩がそのまま物語になったような小説。2018/05/24
まふ
118
ブッカー賞受賞作のサスペンス物語。第二次世界大戦末期,郊外の空き家で国籍不明の全身火傷の重傷患者、不思議な泥棒のオヤジ、爆発物専門のインド人工兵隊員とカナダ出身の20歳の看護婦の4人が共同生活を始める。サハラ砂漠での諜報合戦がその背景にありそうで、読者はナゾの世界に引きずり込まれる・・・。ロンメルとの諜報合戦や「少年キム」、「アンナカレーニナ」などが引用されたり読書家にとっても興味深い作品だ。原爆が日本に投下された途端に怒り出すインド人など、ちょっとムリした部分もあったが、楽しめた。G1000。2024/02/22
藤月はな(灯れ松明の火)
108
謎の英国人患者を巡るロマンス・ミステリーだと思っていたら痛い目に遭いました・・・。戦争がなければ、出会わなかった彼ら。そして言葉にできずに出会うまでの亡くしたと思い込んでいた彼らの過去は彼らを追いかけて報いを受けさせた。時間軸が揺蕩うように揺れる中で描かれる心の機微が見事。そして看護師のハンナが戦場の現状を見て「戦場で命令を下す上官は負傷して臨終を看取らなければならなくなってしまった兵士達の看護や腸内洗浄などを一度、してから上官になればいい!」という言葉が印象的。2017/07/10
NAO
85
第二次世界大戦後後半、フィレンツェ郊外の野戦病院だった荒れた邸宅にひっそりと住む四人。この戦争で心に深い疵を負った三人とインド人ながらもイギリスに忠誠を誓っている工作兵、その四人にとっての、それぞれの葛藤。彼らの心に深い疵を残した戦争とは、いったい何だったのか。静かで上場的な文章の奥に秘められた悲しみと、怒り。2019/08/20
南雲吾朗
68
とってもよかった。 廃墟で暮らす四人の生活は、退廃的で素朴で美しい。心に大きな穴が開いている4人の数奇な半生と現状の描写。特に砂漠の描写が美しい。死が常に付きまとう何もない荒涼とした場所なのに、なぜ砂漠はあらゆる作家から美しく描写されるのだろう?ル・クレジオ、サン・テグジペリ…。各視点から描かれる一つの事柄。残酷な情景さえも美しく感じられる描写。全体を通して大きな叙事詩を読んでいるようだった。残り100ページ、とにかく読み終わりたくない、いつまでもこの本に溺れていたいと思った。美しく良い物語であった。2020/03/19
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