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感想・レビュー
※以下の感想・レビューは、株式会社ブックウォーカーの提供する「読書メーター」によるものです。
saeta
12
死の淵で、運良く切り抜けて来た己の人生を走馬灯のように様々な記憶が浮かんでは消えるアルテミオ・クルス。フエンテスにしては、珍しく年度も表記され比較的読みやすい部類の作品では。妻の家系に入り込むきっかけとなる戦場での妻の兄ベルナルとの邂逅。物語の終盤、混血の青年に育てられて来た14歳のクルス少年の1903年のエピソードは独立した短編にでもなり得る物だったように思う。2022/08/04
刳森伸一
9
激動の時代の中でどん底から這い上がったアルテミオ・クルスの一生を様々な人称や時制を用い、さらには時系列を乱して描く濃厚な物語。フエンテスらしく錯綜した語りだが、難解というほどではない。むしろ時系列を乱すことで、クルスの情念の秘密みたいなものの正体が隠されて進むため、一種のミステリのようにも読め、フエンテスにしてはエンタメ性も高い。2018/02/15
おおた
9
貧民から富豪にまで成り上がった男の追想と病室での最期。力強くもはかない人間の末路を1・2・3人称の文体を使い分け、時間を行きつ戻りつして描く。フェンテス読むなら『老いぼれグリンゴ』を後回しにしてまずこれがおすすめ2009/05/31
rinakko
7
素晴らしい読み応え。母国を、“ラ・チンガータ(凌辱された女)”に他ならないと糾弾する言葉に、圧倒された。その行き場のない憤りが、底流を成す。内戦を生き延びた男が機を掴んでのし上がり、富と権力を得たものの虚しい臨終を迎える…という、やり切れない物語。過去をふりすて、未来だけを見据えて生きてきたアルテミオが、自身も含めて誰一人幸せにすることはなかった。幾つもの選択がかつてあり、その全ての選択の取り返しの付かなさ。その時そうしていなければ、今の命すらなかっただろう…とたたみかけてくる二人称の件は、あまりにも悲痛2013/03/29
tindrum
4
前作の「澄みわたる大地」は、やたらと長く感じた記憶がある。本自体も分厚かったけど。これはそれほど分厚くないにしろ、やはり長く感じた。何故かと考えたら、描写が細かすぎるのだ。 この物語は三通りの人称で語られる。一人称は現在形で、死にゆく主人公の意識の流れを描く。それは主人公のモノローグだったり、ベッド周辺の家族や知人や医者の声だったり、主人公自身のやや手前勝手な過去の回想だったりする。二人称は未来形で、主人公に語り聞かせるような、過去の回想の、主人公には都合の悪い真実だったり、主人公の過去や未来の2018/01/07