内容説明
孤高の作家は「死」と対面する。それはいつ、どのようにやってくるのか?人生の折々に待ち伏せしていた三つの死の影―他人の死、親の死、そしておのれの死。著者の故郷アメリカ南部の村タイドウォーターを舞台に、亡き母の記憶を描いた表題作ほか、99歳の元奴隷の老人と10歳の少年だった著者の奇妙な交流や、鮮烈な戦時体験を甦らせた自伝的連作小説。
感想・レビュー
※以下の感想・レビューは、株式会社ブックウォーカーの提供する「読書メーター」によるものです。
新地学@児童書病発動中
102
自伝的な3つの短編を収録。作者によると現実に起こった出来事を小説にしたらしい。「ラブ・デイ」はアメリカ社会の歪みが伝わってくる物語。主人公の父が直系の先祖が皆戦争で負傷していると語る部分は悲しい。アメリカは戦争をしないと成り立たない国なのだろうか。戦争中にマッチョぶろうとする主人公の本心がこぼれ落ちてくるラストが見事。「シャドラック」は死にかかった黒人奴隷が、故郷である南部に帰ってくる話。主人公である10歳の少年の視点から、30年代の南部の姿が郷愁を込めて語られる。(コメント欄に続きます)2016/09/15
秋 眉雄
19
『鼻先数インチのところに浮かぶ細長い透明な魚は、ずっと後にわかっていやな気がしたが、目的を 果たしてリッチモンドのほうへのんびりと流れてゆくコンドームだった。』 アメリカ南部。主人公ポール・ホワイト・ハーストの、少年から青年へと時代を変えながらの小説三作。 『ラブ・デイ』は第二次大戦、沖縄へ向かう船中での一幕。上官の馬鹿話の最中に家族への想いを巡らせる。 『シャドラック』は幼年時代の話。近所の没落した元・名家に年老いた黒人が死に場所を求めて舞い戻ってくる。 2017/08/12
アトレーユ
8
よかったなぁ。が同著者「ナット・ターナーの告白」は途中、エゴと妄想がイヤになり上から目線がとてもイヤだったのに。こちらは短編3作。「シャドラック」が気に入った。他人事が自分事になる、そんなつながりのやさしさに救われるた。2024/10/11
koz
2
沖縄へ上陸戦を待つ兵員輸送船上、海兵隊員のマッチョな会話の最中に発作的に望郷と父への想いが湧く。故郷のヴァージニア州タイドウォーター。偏見や差別に満ちた社会の中で、父ジェフと少年ポールのはかない幸福と続く不幸が描かれる。第二章「シャドラック」の章が印象に残る。何故かこういう断片を一生思い出すものだ。文章からは豊富に湿度や匂い(臭い)を感じ、夏の夜に読むのが良いと思った。2013/05/27
fuchsia
2
父親は度重なる不幸に打ちのめされるが、息子は内なる自分自身に裏切られる。多くの悲しい人々の不幸を糧に存在する忘れられるだろう凡人たちの世界。2013/05/03