出版社内容情報
覚えていなくても、変わってしまっても、おやじはおやじ。突然怒り、取り繕い、身近なことを忘れる。変わっていく認知症の父に、60男は戸惑うが、周囲の人の助けも借りて、新しい環境に向き合っていく。結局、おやじはおやじなんだ。時に父と笑い合いながら、亡くなるまでの日々を過ごす。「健忘があるから、幸福も希望もあるのだ」という哲学者ニーチェの至言に背中を押されながら。
内容説明
まるで哲学者のように話す父は、ボケているのか、とぼけているのか。とまどい、怒り、そして笑い合った日々。小林秀雄賞作家が綴る介護の記録。
目次
みんなで認知症
「もの」ではなく「こと」
「ある」のありさま
回帰する時間
どっちがどっち?
劇的なる宿命
大丈夫ではありません
愛におののく
父と「チチ」
自由の刑に処す
甘えちゃダメなのか
びっくりする出会い
著者等紹介
〓橋秀実[タカハシヒデミネ]
1961年横浜市生まれ。東京外国語大学モンゴル語学科卒業。テレビ番組制作会社を経て、ノンフィクション作家に。『ご先祖様はどちら様』で第10回小林秀雄賞、『「弱くても勝てます」開成高校野球部のセオリー』で第23回ミズノスポーツライター賞優秀賞受賞(本データはこの書籍が刊行された当時に掲載されていたものです)
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感想・レビュー
※以下の感想・レビューは、株式会社ブックウォーカーの提供する「読書メーター」によるものです。
trazom
148
認知症のお父様と過ごした一年余りが綴られる。頻発する問題行動に翻弄される中で、正常な認知機能を失ったお父様の言葉や行動が、人間や哲学の本質に関わる深い問題を投げかけていることに気付く。「ある」と「ない」の存在論、「もの」や「こと」の認識論、経験と記憶の関係、時間とは何か、我と汝……アリストテレス、ニーチェ、ヘーゲル、サルトル、ブーバー、西田幾多郎など数多くの哲学者の言葉を思い浮かべながらの介護の日々が、ユーモアたっぷりに語られる。深い思索とともに愛情深く父親に寄り添う著者に、胸が熱くなる。いい本だと思う。2023/04/23
まこみや
74
認知症は病名ではなく、認知障害による症状群とされる。では正常な認知とは何か。かくして筆者は父とのやりとりを通じて、言葉の吟味から始めるのである。それはやや誇張して言えばウィトゲンシュタインの『哲学探究』のように、言葉の使用法を巡る考察となる。そして最終的に筆者の思索は次の二点に収斂していく。一つは人格の同一性の問題であり、もう一つは意志と行為における因果律の転倒した認識の問題である。認知症の介護は突きつめると、人を哲学に誘うらしい。いやはや私自身のこととしても身に詰まされる読書体験だった。2023/12/07
gtn
41
アルツハイマー性認知症になった父の介護記。一見、意味不明なセリフや行動を、哲学者の言葉に紐付け、すべて理由があると捉える著者。やや牽強付会だが、これは正しいと思ったことが一つ。認知症は単身では生活困難という定義に照らし、著者自らこそ認知症だと悟ったこと。私も、洗濯機の操作方法を知らず、ごみの分別も正確に把握していない。妻に介護してもらっている現状を申し訳なく思う。2024/05/31
yokey
34
難しかった 笑 介護の日々がつらつらと語られてるのかと思ったら大間違いw父親のひとつひとつの言動に対して、作者は色々考えるんですよ。色々な本を参考にして、それが哲学的でさっぱりわからんwwでもね、面白かった~。うちの親も若干その気が出てきたので参考にしたかったり、なるほどな~と勉強になったりで。2025/02/12
99trough99
32
ノンフィクション作家が自分の父親を介護しながら、認知症について考えるプロセスを、若干のユーモア(妻からのつっこみに「絶句した」だの「ひるんだ」だの、あるいはやはり妻から「存在とか言ってる場合じゃないでしょ」と元も子もないツッコミに膝を打つなど)を交えつつ、形而上学的考察が展開されている書。あとがきで粛々と振り返る下りが本書をもっともよくまとめている、つまり「認知症は病気ではなく、人間関係における次元のずれ」ということ。 妻の栄美さんへ「あなたのおかげで父も母もしあわせでした」との感謝の言葉にほっこりした。2023/11/16
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