内容説明
気ままな大学生と、強気な年上の女。かつての無邪気な恋人たちは、気づけばそれぞれに、取り返しのつかない喪失の中にいた。すべてを失い、行き場をなくした二人が見つけた、ふるえるような愛。生きること、愛することの、激しい痛み。そして官能的なまでの喜び―。絶望の果てに響く、愛しい愚か者たちの声を鮮烈に描き出す、待望の恋愛長篇。
著者等紹介
絲山秋子[イトヤマアキコ]
1966年東京生まれ。早稲田大学政治経済学部卒。住宅設備機器メーカーに入社し、2001年まで営業職として勤務する。2003年「イッツ・オンリー・トーク」で文学界新人賞、2004年「袋小路の男」で川端康成文学賞、2005年『海の仙人』で芸術選奨文部科学大臣新人賞を受賞。2006年「沖で待つ」で芥川賞受賞(本データはこの書籍が刊行された当時に掲載されていたものです)
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感想・レビュー
※以下の感想・レビューは、株式会社ブックウォーカーの提供する「読書メーター」によるものです。
おしゃべりメガネ
201
数ある作品群の中でも、特に印象的なのが本作です。他の作品ももちろん魅力的なのですが、いい意味で文章が‘読みやす過ぎ’て印象が薄くなりがちな作品がある中、キャラのインパクトやストーリー展開など、印象を強く残す貴重?な作品です。映像化もされており、確かに読み進めていても状況や情景がわかりやすい感がありました。展開自体は大きな起伏があるワケでもないのですが、読んでいて結構驚かされてしまう流れもあります。基本的にどの作品もページ数が多いほうの作家さんではないので、非常に読みやすく、親しみやすい作家さんです。2011/01/20
優希
82
剥き出された感情が痛みを伴う恋愛小説でした。軽はずみに付き合い始めた気ままな大学生・ヒデと強気な女・額子。酷い別れ方をし、喪失感の中でそれぞれが過ごしていき、話も重くなり、どこまで堕ちるのか息苦しくてたまりませんでした。行き場をなくしてしまうほど堕落していくのが心に刺さるのです。でも、試練を乗り越えて再会した2人は再生と希望を見せてくれました。絶望を味わったことからの更正に、不器用な力強さを感じずにはいられません。人間って時にはもの凄く馬鹿者になるけれど、立ち直り、歩き始めることもできるんだと思いました。2015/05/26
名古屋ケムンパス
52
わざわざ「しあわせ」から遠ざかる道を歩んでしまった人たちの物語。ぎこちなさがひしひしと伝わって心が痛い。非難することは容易いが、やり直す道を指し示すことができずにさらに心が痛む。ヒデと額子はしあわせになってほしい。2023/05/21
酔拳
51
切ない、恋愛小説。切ないといっていいのかな?どちらかというと、運命の愛。主人公は、大学4年の時に、付き合っていた年上の女性に、突然捨てられる。その女性に捨てられたのが原因か、社会生活から逃げるためかアルコールに逃げ、アル中になるのだが。アル中を克服し、社会復帰をがんばっているところ、自分を捨てた女が、不慮の事故にあい、障碍者になり、山里に一人住んでいる事を知るのだが。「海の仙人」に似ているなと思いました。出てくる女性たちが、皆、個性的な女性ばかりで、読んでいて、楽しかったです。 2019/10/18
クリママ
50
窪美澄ばりの始まりにちょっと驚く。とらえどころのない感じが絲山秋子の魅力とも思っていたが、「勤労感謝の日」のようにはっきりした物言い。愚かな彼の賢い考えがちょっと意外。のめり込み、溺れ、ふられ、アルコールがないと生きていけなくなる。ずぶずぶと沈んでいく描写は秀逸。彼を囲む人たちの造形も鮮やか。「ばかもの」という言葉が優しく響く。2017/12/13