内容説明
日本という「悪い場所」、現代という「閉じられた円環」、そこに分裂症的な生を営む私達はいかなる美術を創造してきたのか?この国に「前衛」は存在しえたのか?気鋭批評家による衝撃的な反=日本現代美術史。戦後美術史の「内部」に深々と侵入し、その起源としての「くらさ」を直視すること。主要な批評・作品を大胆に解読し、戦後美術と日本精神を再定義する記念碑的な美術批評=日本批評。
目次
閉じられた「円環の彼方」は?
90年代日本の「前衛」
スキゾフレニックな日本の私
日本・現代・美術
バリケードのなかのポストモダン
「もの派」と「もののあはれ」
裸のテロリストたち
芸術である、だけど犯罪である
日本の熱
アンフォルメル以前
芸術は爆発だ
暗い絵
感想・レビュー
※以下の感想・レビューは、株式会社ブックウォーカーの提供する「読書メーター」によるものです。
harass
66
佐々木敦の批評本でおすすめされていたので借りて購入。美術雑誌に連載されていたエッセイをまとめたもの。日本の現代美術についての様々なトピックを扱う。必然性もなく、思いつきの流行でしかない様々な「前衛」が繰り返される、日本という場所、「悪所」の考察。ほとんど無知な分野だったが、赤瀬川原平、ダダカン、岡本太郎や「もの派」「九州派」などを知った。刺激的な批評の面白さを味わう。実に含みのある表題に舌を巻く。ただ読み通すのに時間がかかりすぎてしまい反省。再読必要。2018/05/31
ころこ
45
「日本現代美術」という日本の「悪い場所」「閉じられた円環」に楔を打ち、「日本・現代・美術」とするべく戦後美術の試行錯誤を振り返っています。良く分からないのは、「現代」が戦後の様なのですが、モチーフは小林秀雄「様々なる意匠」なのではないか、とすると「現代」は「近代」なのではないかというところにあります。随所に「近代の超克」に言及されていることに、著者がそれを分かっていることがみてとれます。つまり、問題が近代化する日本と西洋の分裂にあるとするならば、「現代」ではなく「近代」であり、小林の問題意識に通底する。し2022/03/21
阿部義彦
16
現代美術が好きなのと、椹木野衣さんのファンでも有るので。最初の方にカラー図版で、赤瀬川原平、村上隆、秋山祐徳太子、会田誠の作品があったのにも惹かれて。美術手帖に連載されたのをまとめたそうですが、思いの外に読むのに手こずりました。時間軸がバラバラで、章ごとに話題が飛んでしまう、というか、美術史よりは、美術評論に重きを置いてるので、慣れるまでが大変。だが関心が一番の赤瀬川原平に関しては、ハイレッド・センター(超清掃)、ミキサー計画、アンデパンダン展、千円札裁判、梱包、宇宙の缶詰まで、盛り沢山で満足。 2025/01/04
koke
15
西洋美術館の『ここは未来のアーティストたちが眠る部屋となりえてきたか?』の図録を読んだところ、随所で本書の内容が前提とされていた。観念して遅まきながら読んだ。村上隆あたりを中心にポップに批評するのかと思っていたら、藤田嗣治の玉砕図にまでさかのぼる骨太の議論だった。特に感銘を受けたのが「美しい芸術」に対して示される疑念と、その根底にある制度論の知見と個人的な体験。なるほど美術を見る目というのはこういう根本的なところから独自に育て上げるものなのか。美術館のキュレーションに依存しすぎていたと反省。2025/06/22
しゅん
14
「日本」の「現代」の「美術」が敗戦以降、一つの閉域を抜け出そうとしながら常に同じ仕草を反復してしまうこと。繰り返しを余儀なくさせる「悪い場所」としての日本を、論理だけでなく歴代の美術批評家の文体を反復することでパフォーマティブに証明しようとしたのが本作なのだろう。美術批評には明るくないので細かく検討できていないが。しかし、本書の主張自体が『ものぐさ精神分析』『敗戦後論』という二冊のエポックな日本論を反復していることは肯定できるものなのだろうか。非常に優れた戦略を感じさせる一冊だけに、強い疑問が残る。2017/08/14