内容説明
日本という「悪い場所」、現代という「閉じられた円環」、そこに分裂症的な生を営む私達はいかなる美術を創造してきたのか?この国に「前衛」は存在しえたのか?気鋭批評家による衝撃的な反=日本現代美術史。戦後美術史の「内部」に深々と侵入し、その起源としての「くらさ」を直視すること。主要な批評・作品を大胆に解読し、戦後美術と日本精神を再定義する記念碑的な美術批評=日本批評。
目次
閉じられた「円環の彼方」は?
90年代日本の「前衛」
スキゾフレニックな日本の私
日本・現代・美術
バリケードのなかのポストモダン
「もの派」と「もののあはれ」
裸のテロリストたち
芸術である、だけど犯罪である
日本の熱
アンフォルメル以前
芸術は爆発だ
暗い絵
感想・レビュー
※以下の感想・レビューは、株式会社ブックウォーカーの提供する「読書メーター」によるものです。
harass
64
佐々木敦の批評本でおすすめされていたので借りて購入。美術雑誌に連載されていたエッセイをまとめたもの。日本の現代美術についての様々なトピックを扱う。必然性もなく、思いつきの流行でしかない様々な「前衛」が繰り返される、日本という場所、「悪所」の考察。ほとんど無知な分野だったが、赤瀬川原平、ダダカン、岡本太郎や「もの派」「九州派」などを知った。刺激的な批評の面白さを味わう。実に含みのある表題に舌を巻く。ただ読み通すのに時間がかかりすぎてしまい反省。再読必要。2018/05/31
ころこ
44
「日本現代美術」という日本の「悪い場所」「閉じられた円環」に楔を打ち、「日本・現代・美術」とするべく戦後美術の試行錯誤を振り返っています。良く分からないのは、「現代」が戦後の様なのですが、モチーフは小林秀雄「様々なる意匠」なのではないか、とすると「現代」は「近代」なのではないかというところにあります。随所に「近代の超克」に言及されていることに、著者がそれを分かっていることがみてとれます。つまり、問題が近代化する日本と西洋の分裂にあるとするならば、「現代」ではなく「近代」であり、小林の問題意識に通底する。し2022/03/21
しゅん
12
「日本」の「現代」の「美術」が敗戦以降、一つの閉域を抜け出そうとしながら常に同じ仕草を反復してしまうこと。繰り返しを余儀なくさせる「悪い場所」としての日本を、論理だけでなく歴代の美術批評家の文体を反復することでパフォーマティブに証明しようとしたのが本作なのだろう。美術批評には明るくないので細かく検討できていないが。しかし、本書の主張自体が『ものぐさ精神分析』『敗戦後論』という二冊のエポックな日本論を反復していることは肯定できるものなのだろうか。非常に優れた戦略を感じさせる一冊だけに、強い疑問が残る。2017/08/14
Francis
6
2022年猫町俱楽部藝術部最初の課題本。戦後現代美術の歩みをたどり、それらがどういう時代背景の下に生まれたのかを論じている。美術評論であると同時に戦後日本史批判でもある。日本は急激な近代化ゆえに前近代的なものが強く残ってしまい、それゆえに欧米では近代的・現代的なものとみなされる美術の運動が実は前近代的なものの表現に過ぎなかった、と言うのが結論だろうか。しかし明日の読書会はどんな感じになるのかなあ。上手くしゃべる自身がない。2022/01/03
msykst
6
▼再読。広義の文化論として捉えると特異性が見出しにくく、重複も多く冗長な印象があったのだけど、しかし括弧つきの「美術」という名の下に行われている展示や批評と対照させて読んでみると、影響力は甚大なんだなと改めて。▼「悪い場所」というコンセプトはなんとなく掴みやすい感じもあるんだが、実はバキッとした定義づけはされていない。「悪い場所」というキーワードと、執筆時点(96-97年)からみた過去作品の数々とを往復させて論じる中で、「悪い場所」というグランドコンセプトと、個々の作品と、双方が意味づけられていく感じ。 2017/01/18