出版社内容情報
私の人生は何度も塗り替えられ、喪失からすべては始まった。最愛の伴侶を看取り、数多の苦難を経て、十年かけて紡いだ書下ろし長篇。
内容説明
昭和38年11月、三井三池炭鉱の爆発と国鉄の事故が同じ日に発生し、「魔の土曜日」と言われた夜、12歳の黒沢百々子は何者かに両親を惨殺された。母ゆずりの美貌で、音楽家をめざす彼女の行く手に事件が重く立ちはだかる。黒く歪んだ悪夢、移ろいゆく歳月のなかでそれぞれの運命の歯車が交錯し、動き出す…。10年の歳月をかけて紡がれた別離と再生。著者畢生の書下ろし長篇小説。
著者等紹介
小池真理子[コイケマリコ]
1952年、東京生まれ。1989年、「妻の女友達」で日本推理作家協会賞を受賞。以後、95年『恋』で直木賞、98年『欲望』で島清恋愛文学賞、2006年『虹の彼方』で柴田錬三郎賞、11年『無花果の森』で芸術選奨文部科学大臣賞、13年『沈黙のひと』で吉川英治文学賞を受賞(本データはこの書籍が刊行された当時に掲載されていたものです)
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感想・レビュー
※以下の感想・レビューは、株式会社ブックウォーカーの提供する「読書メーター」によるものです。
ヴェネツィア
434
プロローグはミステリーのごとくに始まるが、トータルには黒沢百々子の12歳から62歳にいたる一代記である。最後はいたって静かに幕を閉じるが、それは実に波乱に富んだ人生であった。もっとも、物語が閉じた時には百々子の人生にはまだ続きがあるのだが。全体は十分にドラマティックでありながら、一方その語りは静謐である。そして、それは小池真理子の生きた時代をほぼそのままに踏襲する。百々子の送った人生はフィクションなのだが、それはそのまま小池が経験したかも知れない(同時に私たち読者も)もう一つの人生でもあったかもしれない。2023/11/25
starbro
325
小池 真理子は、新作を数十年に渡ってコンスタントに読んでいる作家です。本書は、数奇な運命の女性の大河ミステリドラマ、見事でした。君島 十和子(30代~現在)、蘭世惠翔(高校生~20代)、母娘キャストで是非映像化して欲しいと思います。 https://www.shinchosha.co.jp/book/409810/2021/07/27
いつでも母さん
202
女の一生を見たような感じ。読んだのではなく感じたのだ。沢山の『死』と、別離があった。その都度、百々子は再生するのだ。悲しくない訳じゃない。辛くて寂しい。驚愕の裏切りもあった。けれど、それがどうした。百々子は百々子の人生を生きているのだ。それを幸せと言うのだ。小池真理子らしい表現で様々な『愛』を紡いだ本作。二日がかりでじっくり堪能した。百々子は好きになれない私だが、彼女の人生にたづがいて良かったとしみじみ思った。2021/07/12
まちゃ
160
小池真理子さんが最愛の人を亡くした悲しみを乗り越えて描いた大作。昭和38年11月、三井三池炭鉱の爆発事故と国鉄の鶴見事故が発生したのと同じ日に両親を惨殺された12歳の黒沢百々子。数奇な運命に翻弄されながらも、人生を生き抜いた一人の女性の物語。早い段階で殺人事件の真相には気付くのでミステリー要素は少なめ。百々子の歩んだ人生を描く重厚な一代記って感じでした。質と量ともに読み応えあり。2021/09/13
とん大西
158
生きるということは喪失の繰り返しなのかもしれません。裕福な家庭と愛情深い両親。無惨な殺害事件で運命の変転を余儀なくされた百々子、12歳。少女の頃も大人になっても拭いきれない孤独と憂い。それでも強く逞しく麗しく。明日に流されず受容し、抗わずともはねのける。感情の置き所を迷ってしまうようなザワつく読み心地ながら物語の着地点が気になって頁を捲る手がとまらない。「ただ生きてきただけ」…。数奇な人生と呼ぶのかもしれない。歪な感情に翻弄されたのかもしれない。幸とか不幸とかの向こう側、凛とふるまい続けた女の一生でした。2021/09/05