内容説明
小さな動物をバスにのせて子供たちを訪ねる「移動動物園」。そこで働く二人の若い男女。じりじりと暑い“恋ヶ窪”の夏。懐しい土の匂いと草いきれ…。青春のただ中にいる者だけが知る気負いと絶望、熱情と虚無感を余すところなく書き続け、自ら死を選んだ著者の処女作ほか二作を収録。青春の苦悩と歓喜を鮮かに描いた小説集。
感想・レビュー
※以下の感想・レビューは、株式会社ブックウォーカーの提供する「読書メーター」によるものです。
びぃごろ
12
「移動動物園」新潮新人賞候補作「空の青み」と「水晶の腕」は芥川賞候補作。三篇収録1991年刊。著者は1990年に41歳で亡くなっている。どの作品も20歳前後の若者が、飼育係、マンションの管理人、工場の切取場で働く毎日を描いている。津村記久子にちょっとだけ似た匂いがする。2021/03/03
丘野詩果
7
表題作は1977年「新潮六月特大号」に発表。他に『空の青み』1982年、『水晶の腕』1983年。移動動物園は、山羊、栗鼠、兎、インコ、アヒル達の生態が描かれていて興味深い。動物を見せるのが商売で、動物は商品と割り切っている園長がにくたらしい。いらなくなった動物を達夫と道子が殺処分する場面は読むに堪えない。新人賞の候補になりながら受賞しなかったのは、この部分があるのではないかと想ってしまう。(続きあり)2016/09/29
あ
1
再読2011/08/28
あきこ
1
読んでみて悲しくなった。小説でありながら、現実的すぎて辛いのだ。まるでドキュメンタリーのようなのだ。どちらかといえば日の当たらない人々とその仕事と生活。そのなかでも主人公が自分のやるべきことを淡々とやっているところが好ましく、また悲しくもある。3篇入っていたがどれも同じ印象。地味な作家だけれど他も読んでみたい。2010/10/27
nemuro
1
函館出身の作家・佐藤泰志の本は本書で2冊目の読了。収録されているのは3作で表題作の他に「空の青み」と「水晶の腕」。ミステリーを中心に、日頃、私が読んでいる作品とは違って、舞台で演じられている劇のようでもあり、テレビドラマのようにも感じられます。どの作品も独特の味があって、なかなかいいです。地元出身の作家ではありながら函館市中央図書館では2冊しか見当たりませんでしたので、次は書店にて購入しようと思います。書店には、たしか青色で厚くて3000円ほどの『佐藤泰志作品集』が置かれていたはずですので。2010/02/06