出版社内容情報
日本人の欺瞞をユーモラスに描いた現代版「バベルの塔」。ザハの国立競技場が完成し、寛容論が浸透したもう一つの日本で、新しい刑務所「シンパシータワートーキョー」が建てられることに。犯罪者に寛容になれない建築家・牧名は、仕事と信条の乖離に苦悩しながら、パワフルに未来を追求する。ゆるふわな言葉と実のない正義の関係を豊かなフロウで暴く、生成AI時代の預言の書。
内容説明
Qあなたは、犯罪者に同情できますか?Qあなたはなぜ、犯罪者ではないのですか?生成AI時代の預言の書!第170回芥川賞受賞。
著者等紹介
九段理江[クダンリエ]
1990年、埼玉生れ。2021年、「悪い音楽」で第126回文學界新人賞を受賞しデビュー。同年発表の「Schoolgirl」が第166回芥川龍之介賞、第35回三島由紀夫賞候補に。23年3月、同作で第73回芸術選奨新人賞を受賞。11月、「しをかくうま」で第45回野間文芸新人賞を受賞。12月、「東京都同情塔」が第170回芥川龍之介賞候補になった(本データはこの書籍が刊行された当時に掲載されていたものです)
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感想・レビュー
※以下の感想・レビューは、株式会社ブックウォーカーの提供する「読書メーター」によるものです。
ヴェネツィア
632
新しい時代の文学だという感じが充分な手応えとしてある。その意味では、まさに芥川賞に相応しいのだろう。近未来ユートピア小説(ただし、それは受け止め方によってはディストピアであるかもしれない)としての構築性も揺ぎがない。主人公のサラ・マキナをザハ・ハディドに比肩する建築家として設定し、かつ幻の国立競技場に隣接する東京都同情塔を設計、建築する構想もスケールが大きく、しかもそれ自体が斬新である。さらには、篇中にAIの言説を散りばめ、時にそれとの対話によってプロットを進行させる手法も読者を幻惑させ、混乱に陥れる⇒2024/02/28
starbro
392
第170回芥川賞候補作・受賞作第三弾(3/5)、今回は受賞作、九段 理江、2作目です。本書は、近未来令和版バベルの塔生成AI物語でした。既読2作よりもインパクトがあり芥川賞受賞作っぽいですが、全作読んでから論評したいと思います。 https://www.shinchosha.co.jp/book/355511/2024/02/19
道楽モン
316
今回の芥川賞も前回に続き大当たり! また新たな才能の出現。AIの援用は単なる手法で、より重要なのは、短編ながら偽善性と傲慢さを表出させる試みであること。バベルの塔や聖書を隠喩として仕掛けているのも、人類の歴史への投影だろう。我々が生み出したテクノロジーや人工物なぞ、いくら進化しても、人間の本質に潜む動物性と理性の矛盾や、煩悩と博愛の葛藤は何も解決できない。筆者は、唯一の知性の希望である「言葉」を偽善の道具でしか利用できない、表面的な価値観でしか連帯できない日本の国民性に、強烈な疑問符を投げかけている。2024/01/21
ちくわ
310
冒頭…こ、これがTokyoか!田舎モンにはキラキラし過ぎて眩しい世界だ(笑)。昭和生まれのオッサンには飲み込めない部分もあれど、咀嚼出来る断片を繋いで朧気に理解出来た…のか?物質であれ非物質(言葉や価値観)であれ、異質なもの…特に相容れないものと対峙した際、人が抱く違和感や抵抗、慣れを描いていたような気がした。読了後に感想を見て批判の多さに驚く。それがマサキ・セトを殺害した男の言葉「馬鹿にしているのか? 意味のわかる言葉で喋れ」とダブった。マサキ・セト、牧名沙羅、九段理江…創造者は理解され難いのだろう…。2024/04/19
塩崎ツトム
250
ザハ・ハディドの競技場がそのまま完成し、なおかつコロナ禍でも延期されず強行された五輪により、ネオ東京は夜の訪れないゴッサム・シティと化す。そして新宿御苑にはアーカム・アサイラムたる「東京都同情塔」の建築が始まる。忍殺風にいえば「フクトシンスゴイカワイソウピラー」。本作ではこれでもかとばかりに、社会という、言葉や色付けが保留されるべきマージナルな共同体の存在が無視される。カワイソウかそうでないか。被害者が加害者か。支配者か被支配者か。(つづく)2024/02/18