出版社内容情報
庭のその木は、人の生殖に力を与えるという。人類の業を抉る三島賞受賞作。幼い頃に2階から落ちたが庭の橘の木のおかげで助かったことがある恵実。以来、木の力を恵実が媒介するという噂が流れ、子どもを望む人々が大勢家を訪れるようになった。自分にすがる彼らの気持ちに戸惑いながらも役割を果たす恵実だったが、そのことが自身や家族に暗い影を落とし――子孫繁栄という常識を揺さぶる問題作。
【目次】
内容説明
幼い頃に2階のベランダから落ちたものの、庭の橘の木のおかげで助かったことがある恵実。以来、橘の木が持つとされる妊娠をもたらす力を恵実が媒介するという噂が流れ、子どもを望む人々が家を訪れるようになった。自分にすがる彼らの気持ちに戸惑いながらも役目を果たす恵実だったが、媒介としての人生は家族や自身に暗い影を落としていく―。庭に立つ橘の木、その力を信じ「子孫繁栄」に翻弄される人間の業をえぐる、気鋭の問題作。第38回三島賞受賞作。
著者等紹介
中西智佐乃[ナカニシチサノ]
1985年、大阪府生まれ。同志社大学文学部卒。2019年、「尾を喰う蛇」で新潮新人賞を受賞しデビュー。2025年、『橘の家』で第38回三島由紀夫賞に選ばれる(本データはこの書籍が刊行された当時に掲載されていたものです)
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感想・レビュー
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いつでも母さん
141
なんだろ、このもや~っと、ざらっとする感情は。不快?不穏?木に操られてると言うにはこの木が気の毒な感じがするが、もっと早くどこかで・・例えばこの家を決めた父が出ていった時にでも伐ってしまえばとも思ってしまう。橘の木と恵実の共依存と言ってしまうには恵実のこれまでが哀れかー身籠りたい(身籠らなければならない)女性にとっては藁にも縋る思いだ。だが、それだけでは無い女性もいる最後が絶句。途絶えると思えた橘の木の子孫繫栄物語と読んだ。2025/07/30
fwhd8325
69
156ページの作品ですが、今回も濃厚な世界を楽しませていただきました。妖しげな象徴としての橘の木。そしてキーワードのように頻繁に登場する子孫繁栄。それぞれの人間の欲望が織りなす物語は、どこか滑稽であり、重苦しい。子孫繁栄って?そんな問いかけが、ラストに晴れる。えぐられてような面白さがあります。2025/09/14
がらくたどん
61
人の心の呪縛の渦をとことん描く三島由紀夫賞♪幼い兄妹を育てる主婦と平凡な夫の住む家の庭にそびえる橘の巨木。住むのなら大事にしてね。先住者はそう言い残して消えた。窓から落ちた娘を木が受け止めた奇跡によって母に芽生えた樹木への畏怖。橘の木は子護りの樹。橘の木は子宝の樹。産みなさい。育てなさい。宿らぬならば祈りなさい。孕まぬ女は悔いなさい。母性に押し込められた母の不安は娘の「胎児を診る力」を開眼し、娘は人々の子孫繁栄願望を吸収しつつ妖しい生殖呪縛に取り込まれていく。今日もニュースが少子化を責める。これぞホラーだ2025/09/05
えんちゃん
58
「狭間の者たちへ」「長くなった夜を」で、不穏な人間関係や家族関係を描いた中西さん。本作では不思議な力を持つとされる橘の木と、その木に翻弄される家族の人生を描く。さすってもらうと妊娠すると崇められた少女。利用する大人。縋る女たち。信仰や宗教の世界と、人間の業の深さを知る。独特の雰囲気持ってますね。これからの作品も楽しみです。2025/08/15
pohcho
51
一軒家の庭にある大きな橘の木。その木を拝み、その家の一人娘にお腹を触ってもらうと身ごもることができるという噂がたち、いつしかその家には多くの不妊に悩む女性たちがやってくるように。しかし、何十年も女性たちの腹を触り続けた娘は一生身ごもることはなく。人はなぜ子孫繁栄を願うのか。どうして女性ばかりが悩まないといけないのか。そんなことをぐるぐる考えながら読む。結局、橘の木とはなんだったのかよくわからないのだが・・。子を望む女性たちの念のなんと重いこと。ぐったりしてしまったが、読みごたえがあった。2025/10/15