出版社内容情報
あの災厄から十年余り、男はその地を彷徨いつづけた。第168回芥川賞候補作。元の生活に戻りたいと人が言う時の「元」とはいつの時点か――。40歳の植木職人・坂井祐治は、あの災厄の二年後に妻を病気で喪い、仕事道具もさらわれ苦しい日々を過ごす。地元の友人も、くすぶった境遇には変わりない。誰もが何かを失い、元の生活には決して戻らない。仙台在住の書店員作家が描く、止むことのない渇きと痛み。
内容説明
元の生活に戻りたいと人が言う時の「元」とはいつの時点なのか―。あの災厄から十年余り、生活も仕事道具も攫われ、妻を喪った男はその地を彷徨い続けた。仙台在住の書店員作家が描く、止むことのない渇きと痛み。第168回芥川賞受賞。
感想・レビュー
※以下の感想・レビューは、株式会社ブックウォーカーの提供する「読書メーター」によるものです。
ヴェネツィア
440
第168回芥川賞受賞作。井戸川射子『この世の喜びよ』との同時受賞であったが、方や喜びを謳い、方や暗鬱な生を語る対照的な作品である。小説の舞台は宮城県南部の亘理。阿武隈川が流れ、鳥の海を擁する本来は穏やかな地である。それは津波によって大きな変容を余儀なくされた。小説は、その震災の十数年後を描く。この作品に特徴的なのは、いくつかの死が影を落とすことである。祐治の妻の晴海、後妻との間に出来た子、そして最後は明夫である。彼らは直接震災で亡くなったわけではなく、復興が果たされないこの地で亡くなっていった。⇒2023/10/06
starbro
337
第168回芥川龍之介賞受賞作・候補作、第四弾(4/5)、受賞作です。東日本大震災のトラウマを引き摺り彷徨する主人公の物語、芥川賞受賞作らしい作品でした。 但し、この内容では売れないと思いますし、2作受賞回の作家は大成しないというジンクスがあるらしいので、このままでは売れない作家まっしぐらです。芥川賞作家で活躍している(あまり数多くない)川上 未映子の凄い新作を読んだばかりなので、なお一層実感しました。 https://www.shinchosha.co.jp/book/354112/2023/03/04
いっち
229
「荒地」=東日本大震災の被害を受けた土地。主人公は、宮城県で植木職人をしている。10年前、植木屋として独立した直後、災厄が起きた。植木に関係ない仕事も引き受け、生計を立てた。妻が肺炎で亡くなり、再婚した妻は家を出て行った。主人公は、母と息子と暮らしている。息子が希望。主人公はそう見せないけど、垣間見える。それが良い。一方、息子は主人公を避けている。ヘッドホンをしたり本を読んだり会話の隙を与えない。息子が怪我したとき、主人公は大声を出し、その後涙が止まらなかった。主人公への息子の振る舞いに、ほろっと泣けた。2023/02/11
のり
218
東日本大震災から12年目の今日、偶然にも読み終わった。あの日、全てを失った人は沢山いた。いつもの日常が一変した。本作の家族も震災を境に徐々に変化していく。2年後に妻を亡くし、気力を保つのがやっと。残された幼い息子との接し方にも距離がある。再婚も上手くいかず、気持ちがさらに揺れる。人間生きて行くには張り合いが必要だ。仕事はある。友人もいる。まだ人生折返しだ。心から笑える日が来ることを願う。2023/03/11
貴
212
心の中にひそんでいる、すすんで罪悪感を求める気持ちは、いったいどうゆうものなのだろうか。愛する人を失い、そのすべてに責任感を感じる、自分の行動や発言に対して。美しい心ですが、少し重すぎるかもしれない。2023/05/29