出版社内容情報
皮膚が自分自身だった。見られたくない、でもこの苦しみを知ってほしい。痒みに支配された女性書店員の生き辛さを描く三島賞候補作。
内容説明
五十嵐凛、書店員6年目。アトピーの痒みにもやっかいな客にも負けず、今日も私は心を自動販売機にして働く。皮膚が自分自身だった。肌を見られたくない、でもこの苦しみを知ってもらうことは、自分を知ってもらうことだった。非正規雇用、学校のいじめ、カスタマーハラスメント、そして東日本大震災…。痒みに支配された女性書店員の生きづらい日常を圧倒的リアリティで描いた。第34回三島由紀夫賞候補作。
著者等紹介
佐藤厚志[サトウアツシ]
1982年2月9日宮城県仙台市生まれ。東北学院大学文学部英文学科卒業。ジュンク堂書店仙台TR店勤務。2017年第四十九回新潮新人賞を「蛇沼」で受賞。2020年第三回仙台短編文学賞大賞を「境界の円居」で受賞。2021年「象の皮膚」が第三十四回三島由紀夫賞候補となる(本データはこの書籍が刊行された当時に掲載されていたものです)
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感想・レビュー
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ケンイチミズバ
113
ハンデを抱える人の生きづらさへの共感と彼女が働く書店のクレーマーなどの現実が興味深く読めた。先の推し燃ゆと通じるものを感じた。推しの方は発達障害だったが、こちらはアトピー性皮膚炎。父親のあまりの無神経さ、教員の無理解と配慮のなさは時代設定は?リアルタイムではないだろう。今なら酷すぎる。本人にしかわからない、そして訴えようにも勇気がいる。逃げ場が家にすらない。ネット上のバーチャル彼氏というのはやはりリアルタイムだ。子供の頃の傷付き方が痛い。私が教師なら抱きしめたい。不可思議なタイトルへの興味から手に取った。2021/07/07
花ママ
64
主人公の凜は小さい頃から、ひどいアトピーに悩まされてきた。そのことで学校ではいじめにあい、家庭の中でも兄弟から煙たがれ、特に父親からは、アトピーで苦しんでいる我が子にこんなこと言えるのという言葉で罵られる。大人にはなった凜は、契約社員として書店で働き始める。書店業務の裏側や、お客特にクレーマーへの対応の描写は興味深かった。アトピーの猛烈な痒みの描写、我慢できず掻くことを止められない辛さが全編を覆っていたが、最後隠し続けていた象の肌を夜中の公園で晒すことで、凜が何かしら吹っ切れた気がした。2021/08/01
いっち
52
象の皮膚とは、主人公の肌の皮膚。小さい頃からアトピーに苦しんできた。同級生にはいじめられ、家族からは汚いものを見る目で見られる。主人公は書店に就職したが、夏に半袖を着なければならなかったため、別の仙台市の書店で契約社員として働く。学校や家族に居場所がなかった主人公だが、書店では頼られる存在。そんな中、東日本大震災が起こる。主人公は実家に帰るが、歓迎されない。書店のイベントではクレームを受ける。救いは、同僚の年下の女性。プライベートで交流のある、唯一友人と言える存在。同僚である友人が、主人公を変えてくれる。2021/07/04
竹園和明
47
アトピーの人の苦労、肉体的・精神的苦痛が想像以上だという事を今さらながらに知った。主人公凛がアトピーと格闘する姿が本当に痛々しい。また、子供時代に学校や家庭で受けた心ない言葉、特に父親の暴言には腹が立った。大人になり非正規雇用の書店員として働く凛は、仮想空間のアバターを心の拠り所としながら、なるべく他人の目を避け日々を送る…。アトピー、非正規、クレーム客、仮想の恋人、大震災、。並べられた題材がうまく集約出来ないままラストを迎えてしまっており勿体ない。ラストも少し奇抜すぎない?!。直木賞作品に期待だな。2023/02/02
路地
45
幼少期から現在に至るまでアトピーに悩む主人公。家族(とくに父親)と周囲の無理解や冷淡さに憤りを感じつつ、著者の経験を反映したと思われる書店でのドタバタ劇に笑ってしまう。シリアスな境遇とユーモラスな文章が同居している。全部脱ぎ捨てて一皮剥けて(アトピーに悩む主人公にはふさわしい表現でないかもしれないけど)希望を感じさせる結末が心地よい。2023/03/15