内容説明
小説家としてデビューしたものの著書は一冊だけ、しかも絶版。そんな私が関西の巨大私立大学で創作を教えることになった。小説家としての先行きへの不安や夫との対立、動機も目的もさまざまな学生たち…執筆はますます行き詰まり、教え子たちも隘路へとはまり込んでいく。教師としての自身の経験を元に、小説と格闘する人々を描いた表題作の他、女性と世界との葛藤を浮き彫りにする作品集。
著者等紹介
谷崎由依[タニザキユイ]
1978年福井県生まれ。京都大学大学院文学研究科修士課程修了。2007年「舞い落ちる村」で第一〇四回文學界新人賞を受賞。2019年『鏡のなかのアジア』で芸術選奨文部科学大臣新人賞を受賞。小説の他、英米小説の翻訳も手がける。2015年から近畿大学文芸学部講師を務め、現在は准教授(本データはこの書籍が刊行された当時に掲載されていたものです)
※書籍に掲載されている著者及び編者、訳者、監修者、イラストレーターなどの紹介情報です。
1 ~ 1件/全1件
感想・レビュー
※以下の感想・レビューは、株式会社ブックウォーカーの提供する「読書メーター」によるものです。
fwhd8325
62
何度か同じ読後感を味わったことがあります。それは、学生時代、今よりもずっと感覚が鋭かった頃、前衛的な映画を見たのと同じ感覚です。それはそれで、私の中で心地よいもので、自分の中に新しい世界が作られたように感じます。表題作も混沌とした世界をとてもシンプルに描いているんだと思います。ただ、シンプルが故に解釈が難しいのかもしれません。個人的には「鏡の家の針」が面白かったです。2020/01/23
えみ
19
「藁の王」「鏡の家の針」「枯草熱」「蜥蜴」4編収録の中・短編集。特に印象深かったのは表題にもなっている「藁の王」。著書が一冊だけの小説家・私は不安定な心を抱えたまま大学で創作を教えていた。小説という未知なる世界で惑う学生達。彼女らに示す小説の道とは…。登場人物の感性が独特なうえに、会話が重くて重くて、途中で押し潰されそうになった。だけど、だからこそ追い詰められていく苦悩と己の正統を問う葛藤が痛いくらい伝わってきた。小説は誰の為に書くのか。自らの中で答えを出した者だけが堂々と歩んでいける道なのかもしれない。2019/04/09
湖都
15
生徒や家族や友達がいてもどこか孤独な人間を主人公に据えた中短編集。著者の本は初めて読んだのだが、文章の肌触りが硬く、そのためか物語自体にも柵を張り巡らせているような入りにくさを感じた。幻想味や人間関係のエッセンスもあるのに、全部自分の問題というか、独り言をずっと聞いているような感じ。本書の中だと、敢えて言うなら『枯草熱』が好き。得体の知れない謎の病気「枯草熱」なのに、正式な病名が判明した途端に夢が覚めるような感覚が良かった。2019/08/02
Takanori Murai
11
「言葉は飛び去る。・・・言葉が誰の中にどう根づいても、どうすることもできない。」発した言葉は思惑と離れて、受け手に影響を与えたりする。会話であってもそうだが、まして小説となると相手は不特定多数、どう受け取られるかはわからない。言葉は発信した時点で自分のものでなくなる。小説を書く者が抱く恐れ。「藁の王」で深く考えさせられたのち、「鏡の家の針」「枯草熱」「蜥蜴」を、作者の感性に同化させようと言葉をかみしめていたら、心が壊れ始めた。2019/06/21
しい☆
11
表題作を含めぜんぶで4編。ヒリヒリして、痛くて、でもやめられなくて、夢中で読んだ。「蜥蜴」が好き。2019/05/08