出版社内容情報
疑う隙なんぞありはしない、あれは立派な仇討ちでしたよ。芝居町の語り草となった大事件、その真相は――。ある雪の降る夜に芝居小屋のすぐそばで、美しい若衆・菊之助による仇討ちがみごとに成し遂げられた。父親を殺めた下男を斬り、その血まみれの首を高くかかげた快挙は多くの人々から賞賛された。二年の後、菊之助の縁者という侍が仇討ちの?末を知りたいと、芝居小屋を訪れるが――。現代人の心を揺さぶり勇気づける令和の革命的傑作誕生!
内容説明
芝居小屋の立つ木挽町の裏通りで、美少年菊之助は父親を殺めた下男を斬り、みごとに仇討ちを成し遂げた。二年後、ある若侍が大事件の顛末を聞きたいと、木挽町を訪れる。芝居者たちの話から炙り出される、秘められた真相とは…。
著者等紹介
永井紗耶子[ナガイサヤコ]
1977年、神奈川県出身。慶應義塾大学文学部卒。新聞記者を経て、フリーランスライターとなり、新聞、雑誌などで幅広く活躍。2010年、「絡繰り心中」で小学館文庫小説賞を受賞し、デビュー。2020年に刊行した『商う狼 江戸商人 杉本茂十郎』は、細谷正充賞、本屋が選ぶ時代小説大賞、新田次郎文学賞を受賞した。2022年、『女人入眼』が第一六七回直木賞の候補作に(本データはこの書籍が刊行された当時に掲載されていたものです)
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感想・レビュー
※以下の感想・レビューは、株式会社ブックウォーカーの提供する「読書メーター」によるものです。
夢追人009
758
山本周五郎賞の受賞おめでとうございます。本書は大掛かりな騙しの時代劇ミステリー小説ですが、木挽町の芝居小屋に集まった人々が自らの半生を語る人生物語がとても魅力的で現代社会を生きる私達にも大いに参考になる教えや考え方が詰まっていると思います。本書を読んだ方の中で人生観が変わり今悩みを抱えておられる方にも良い方向の答えが出て一歩前へ進む事ができたかもしれません。ミステリーは捕物帳の親分であれば見破られるかもしれませんが、これは実質は罪のない謀であり悪事とは呼べない種類の善意の行いですから心配ないと思いますね。2023/07/13
鉄之助
730
仇討ちを目撃した5人が「江戸弁」で、一人称で語り始める。そのリズムが心地よかった。まるで、落語家の名人芸を寄席で聞いてるように映像が浮かんで来る。太宰の傑作『駆け込み訴え』などの一人称語りを底本にしている、と著者自ら言うようによく練られた作品だ。「河原乞食」「芳町上がり」「隠亡」などと蔑まれながらも、したたかに生きる庶民の処世術に、私もこれから生きていく”力”をもらった気がした。そして終幕、タイトルの真の意味が良く良くわかる大団円が待っていた。新聞記者出身の永井さん、お見事!2023/08/01
パトラッシュ
687
藤沢周平か葉室麟なら、父を殺された若侍が見事仇討ちを遂げるまでの苦労や人間模様を描くだろう。そんな古臭い展開と思わせて、鮮やかに引っくり返す着想と構成力が見事だ。世の理不尽のため木挽町に吹き寄せられた面々が、同じ理不尽に追い詰められた若者と元家人を助けるため大芝居を打つ。身分や立場がどうにもならないことを知っている彼らにとっては、支配者面をする武士への一世一代の痛快な復讐だった。最初は単なる目撃談だったのが少しずつ矛盾や疑念が生じ、題名の「あだ討ち」の意味を解き明かす結末は上質なミステリの味わいすらある。2023/03/22
starbro
651
第169回直木賞候補作全作品、来週の発表前にコンプリートしました(5/5) 永井 紗耶子、2作目です。巧さと渋さの良作ですが、圧倒的な勢いでの直木賞受賞はイメージ出来ないので、直木賞予想はステイです。 https://bookmeter.com/mutters/255320709 私事ですが、30年以上前木挽町で仕事をしていました。 現代でも殺人事件で無期懲役以下のケース、被害者遺族があだ討ちを求める場合は認めてあげたい。 https://www.shinchosha.co.jp/book/352023/2023/07/13
青乃108号
647
なるほど。良く練られた本だ。芝居小屋の面々がそれぞれ語る「あだ討ち」の詳細とそれぞれの生きざま。人間って素晴らしいなあ。作品については既に多くのレビュアーさんが上手い事書かれている事だろうから、俺は第五幕の五瓶について書こう。芝居の筋書を生業とする五瓶。その言葉が何より俺に響いたのだ。俺自身、段々と衰えて年を取って、それでも老体に鞭打って仕事をして、鬱持ちのせいもあって塞ぎがちだったところに、「面白がったらええんとちゃいますか。」五瓶が語る言葉は重みが違う。あともう少し頑張ってみようと。そう思えたんだよ。2024/01/29