出版社内容情報
毛沢東治世下の中国に墜ちた、台湾空軍スパイ。彼は飢餓の大陸で“怪物”と邂逅する──。直木賞受賞作『流』はこの長編に結実した!
内容説明
鹿康平が怪物を撃ったのは一九六二年のことだった。わたしが書いた小説の冒頭だ。広東省上空で撃墜された台湾空軍B‐17偵察機に乗っていた叔父が主人公のモデル。彼は敵国から奇跡の生還を果たしたのだ―。台北出身の作家・柏山康平が執筆した長編『怪物』は高い評価を受ける。故郷に凱旋した柏山はその夜、同行した出版社社員椎葉リサと関係を持ってしまう。運命の女。乱舞する青い鳥。中世の王のごとく君臨する“怪物”との対決。恋そして冒険。唯一無二の圧倒的エンターテインメント!
著者等紹介
東山彰良[ヒガシヤマアキラ]
1968年、台湾台北市生れ。9歳の時に家族で福岡県に移住。2003年、「このミステリーがすごい!」大賞銀賞・読者賞受賞の長編を改題した『逃亡作法 TURD ON THE RUN』でデビュー。’09年『路傍』で大藪春彦賞を受賞。’15年『流』で直木賞を受賞。’16年『罪の終わり』で中央公論文芸賞を受賞。’17年から’18年にかけて『僕が殺した人と僕を殺した人』で、織田作之助賞、読売文学賞、渡辺淳一文学賞を受賞する(本データはこの書籍が刊行された当時に掲載されていたものです)
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感想・レビュー
※以下の感想・レビューは、株式会社ブックウォーカーの提供する「読書メーター」によるものです。
starbro
198
東山 彰良は、新作をコンスタントに読んでいる作家です。「流」の系統の夢の中の私小説、エンタメとして読みましたが・・・ 我々の世代で怪物と言えば、やはり『怪物くん』です(笑) https://www.shinchosha.co.jp/book/334653/2022/02/28
みっちゃん
151
自死した叔父を描いた小説『怪物』が、作者の主人公も自らを物語の登場人物のように感じる。どこまで現実で、どこから虚構なのか。それともこれは只の夢なのか。それらがお互いに侵食し合うような不安定な中で語られる、台湾と中国の間に横たわる複雑な歴史。彼が不倫の果てにとんでもない事件で失恋して、虚脱感に囚われるのに下半身の欲求に逆らえない愚かさを笑いながら愛おしいとも感じる。声を限りに叫びながらひたすらに走る、作中作のラストではないあの場面で物語を終わらせる処がすごく良い。これはやっぱり生き直しの物語なんだと思った。2022/04/21
utinopoti27
129
台湾出身で日本育ちの「私」こと作家の柏山康平が主人公。彼がかつて叔父の話をもとに書いた日中戦争に関わる作品が、10年の時を経て一躍脚光を浴びたところから、物語の幕が開く。本作では、現実と作中作が交錯しながら進む手法が用いられているのだが、次第にその境が曖昧なものになってゆくあたりで、主人公の葛藤やら恋愛観やらが延々と語られる。自由とは何か、愛とは何か・・。この手の文学作品は、格調高い一方で、盛り上がりに欠けるため、かなりの読書力が要求されると思う。ゆえに今の自分では斜め読みが精一杯。徒労感だけが残った。2022/08/31
ずっきん
102
わたしにとって東山彰良と最高は同義語である。在日台湾人の作家とその著作『怪物』が夢かうつつかとばかりに入り乱れながら進む物語。しかも初っぱなに夢オチであると宣言し、ネタ割れで挑んでくるんである。マジックリアリズムかと思えばちゃんと付合し、油断してると惑わされる。痺れる筆致、どう転がるのか予想もつかせない展開。ああ、読む喜びが途切れない。愛と自由に泣き笑いし、冒険譚に胸が踊る。ジャンルでは括れない作家さんとはいえ、よくぞここまでぶちこめるもんだなあ。東山彰良全部入りみたいな贅沢な逸品。むろん年ベス入り♪2022/02/23
たいぱぱ
87
これはいったい何なんだろう?夢か幻想か…もしくは策略なのか…この『怪物』のストーリー展開に対しての言葉であり、『怪物』を読んで「凄い」と僕が感じた要因に対してである。鳥が随所に出てくるところであったり、夢なのか現実なのかわからないところなど村上春樹さんの『ねじまき鳥クロニクル』を連想させられたが、東山さんの方が硝煙を帯びた狂気が真に迫ってる気がする。訳が分からない部分があるのにも関わらず、圧倒的な筆力の前に何故かストンと腑に落ちてしまってる自分がいる。何だかわからないが「圧倒された」余韻だけが残っている。2022/09/13