出版社内容情報
戦争の翳が色濃く残る一九五〇年代の大学時代。そこには自由が、万巻の書が、文学があった。八十代を迎えた作家による自伝的連作集。
内容説明
一九五六年、大阪から上京し、早稲田大学露文科に入学。米川正夫ら教授陣、個性豊かな級友たち、コケティッシュな女学生、親戚のような大家夫妻や愛情深い両親の姿…。八十代を迎えた作家による自伝的連作集。
著者等紹介
森内俊雄[モリウチトシオ]
1936年、大阪生まれ。早稲田大学ロシア文学科卒業。69年『幼き者は驢馬に乗って』で文學界新人賞を、73年『翔ぶ影』で泉鏡花賞を、90年『氷河が来るまでに』で読売文学賞、芸術選奨を受賞(本データはこの書籍が刊行された当時に掲載されていたものです)
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感想・レビュー
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メタボン
32
☆☆☆☆☆ 今はもう見なくなった「文士」の香りがする自伝小説。齢80にして、60年も前の学生時代のことを活写できる筆力は凄い。どちらかというと、老年の現在から遠くを見やるような視点で書く文章が、人生の深淵を見せて心に響く。老夫婦が大森にて羽田から離着陸する飛行機を眺めている、その佇まいが良い。私の好きな伊東静雄、室生犀星への言及が多いのも良いし、川端康成「みずうみ」と「幼き者は驢馬に乗って」の関連も知って良かった。何よりも随所に出てくる引用文が、この小説と響きあっており、この作家の深い到達点を示している。2022/03/07
海燕
11
森内さんは「梨の花咲く町で」以来2作目。「新潮」掲載作6編を収録。主に著者の早稲田露文科在学時代、昭和30年代の出来事を綴ったもの。それにしても、記述の詳細なことだ。級友との親交、下宿での大家とのやりとり、ドストエフスキー、西田幾多郎、クラシック音楽、夏季休暇、大阪の実家‥。事実と創作の境界はどこなのか。創作でないとすれば、当時の日記に基づいているのだろう。古きよき時代を丹念に書き起こした、ある意味奇跡のような作品に思える。森内さんも昨年、鬼籍に入った。もうこの文章を読めないのだと思うと淋しさが募る。 2024/02/05
ホン
8
筆者が早大のロシア文学科に在学してた頃の昭和31年から数年間を回顧する自伝小説。故郷の大阪、あるいは九州から北海道までの旅の様子とか多岐にわたって書かれているがさすがに文学青年だけあって 何かに出合うたびにドストエフスキー、島崎藤村、川端康成などの作品を引用しての比喩が当たり前のごとく書かれている。なかなか味わい深い、「大阪に帰り 千日前の自由軒のカレーライスを食し」とあるがそう言えば私も若かりし頃 ここに何度か食べに行ったことがあったな。2018/02/27
ごー
5
Tさんより拝借。1956年、著者は早稲田大学第一文学部露文科の学生になった。その学生時代の記憶。同級生も教授陣も、私から見ると豪華な顔ぶれで、周囲の人々、特に下宿先の家族などは上流階級に見えるが(杉並や目白の庭付き一戸建、複数の下宿人を置くほど部屋がある!)、当時としては中流ということらしい。私にとっても懐かしい人名、店名、地名がいくつか。表紙の絵は著者の親友だった佐々木壮六のもの。「そもそも文学というのは、学問かな?」と問う人があるが、はたしてどうなのかな? そして学問とは?2018/04/07
chuji
4
久喜市立中央図書館の本。2017年12月初版。初出2013年~2017年にかけてほぼ1年に1作のペースで文芸誌「新潮」に発表されたもの。1956年から4年間早大生だった時のことを回想する自伝的連作6編を収めたもので、一編の長編として読むことができる。それにしても、80歳を超えた著者が60年以上前のことを生き生きと描いているのは凄い。アラカンのオイラは1週間前の事を思い出すのも大変なのに?2018/02/14