出版社内容情報
田植え歌でも男女の契りの歌でもある夜須禮歌、艶やかな想いを運ぶ節回しに甦る、その刻々の沈黙と喧騒。日常の営みの、夢と魂の境目に深く分け入る連作。
内容説明
日常の営みの、夢と現、生と死の境目に深く分け入る8篇。待望の最新連作短篇集。
著者等紹介
古井由吉[フルイヨシキチ]
1937年、東京生まれ。東京大学大学院独文科卒。71年「杳子」で第64回芥川賞を受賞。80年『栖』で日本文学大賞、83年『槿』で谷崎潤一郎賞、87年「中山坂」で川端康成文学賞、90年『仮往生伝試文』で読売文学賞、97年『白髪の唄』で毎日芸術賞を受賞(本データはこの書籍が刊行された当時に掲載されていたものです)
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感想・レビュー
※以下の感想・レビューは、株式会社ブックウォーカーの提供する「読書メーター」によるものです。
優希
103
歳月を超えた営みや生死の狭間に入り込むあり方が、静かに積み重なっていました。思わぬ所から来る異世界に足をすくわれて倒れ込む感覚が心地よかったです。日常から非日常へ引き込まれる世界観、生きていくことと死にゆくことが美しく、夢と現が曖昧になっていく空気が佇む場を失わせていくようでした。どんどん溺れていくようにこの世界の海に沈み込んでいきます。ゆっくりと、ゆっくりと。そういう味わいが贅沢ですね。2016/10/16
くさてる
14
短編集。静かに積み重なっていく端正な文がただ心地良く読み進めていった。難解ではない筈なのに、思わぬ方向から繋がっていく異界の風景に足をすくわれて、倒れ込んでしまうと、そのままそのこの世でなさにただ圧倒される。この著者ならではの読書体験にただ溺れるばかり、でした。もう本当に、素晴らしい。2015/01/10
かんやん
8
またこの世界に還ってきた。それにしても、装丁も帯の惹句も些かマンネリ気味ではありませんか、と読み進むうちに、またしても、入院の話、若い男女が郊外で同棲する話、昔の友人の生死、空襲の記憶……しかし、どこへ連れて行かれるのか不安になってくる。決して心地の良い文章ではなく、読み手に果てしのないような緊張と集中を強い、しばしばつながりは見失われ、それでも、どこかで遠く呼応し合っている。誰がいつ、どこですら曖昧になり、人の生き死にや男女の営みが濃密に重なり合い、読み終える度に深くため息をつく。時には涙する。2016/01/03
みさ
6
短編集。難しい。じっくりと読まないと、物語の繋がりが分からなくなる。理解出来ているか怪しい。著者は頭に浮かぶ過去や幻が、目の前の現実と全く変わらないくらいの実感をもって感じられる人なのでは。数年後にもう一度読んでみたい。2019/02/18
hitotoseno
6
巻頭の「やすしみほどを」がこの連作小説集をリードするだけでなく、振り返ってみれば総括の役割をも果たしていることに気づく。身体に不全を抱えたところに訪れる言葉をもてあまし、書きつけでもしないことには落ち着いてくれない、いつしか肉体は言葉が飛び交う座のようなものとなり、紙にしたためるものはせいぜいが残された句を詠むばかり。奔放に任せているからには企まれたものではない。それでいながら、それらの句は連歌のような緩やかな結び目をつくり、一つの節がどこかの節と通じ合っている。それが小説同士にもあてはまる。2012/04/09