出版社内容情報
特攻基地で出撃を待つ兄、東京大空襲で父母と妹を失い孤児になった弟。浅草、昭和質店の兄弟それぞれの戦争を描く書下ろし長編小説。
内容説明
瀬戸内の基地で「回天」特攻隊員として出撃を待つ兄善一郎は、たぎる想いと葛藤の日々を、日記と弟への手紙に綴った。学童疎開先から返事を書き続ける弟昭二。だが東京大空襲の戦火で父と母を亡くし妹をも失ってしまう―。戦争に引き裂かれ、生と死の極限に生きた兄弟の魂の交流が照らし出す戦争の悲劇。書下ろし長編小説。
著者等紹介
佐江衆一[サエシュウイチ]
1934年、東京生まれ。コピーライターを経て’60年、短篇「背」で新潮社同人雑誌賞を受け作家としてデビュー、佐藤春夫に評価される。’90年『北の海明け』で新田次郎文学賞受賞。’95年ドゥマゴ文学賞を受賞した『黄落』は、著者自身の老老介護を赤裸々に描いてベストセラーになった。’96年『江戸職人綺譚』で中山義秀文学賞を受賞(本データはこの書籍が刊行された当時に掲載されていたものです)
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感想・レビュー
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taiko
45
浅草の質屋の息子昭二は、学童疎開で東北白石で集団生活を送り、兄善一郎は海軍の特攻兵として回天に乗船する訓練をしていた。ある兄弟の戦争の物語。…戦争の小説は、毎回辛く悲しい気持ちになります。親元を離れ、疎開先での生活は、子供にとってそれは寂しく辛いものだったでしょう。親元や戦地の兄からの手紙が心の支えというのは胸に染みます。人間魚雷回天という凄まじい兵器については、過去に読んだ『出口のない海』で知っていましたが、今回はその悲惨さはあまり感じることなく、ただ最後に善一郎が選んだと思われる道に苦しく→続く2019/06/18
mika
34
兄と弟の戦時中、それぞれの運命が描かれていた。兄は人間魚雷「回天」の特攻隊員、弟はまだ幼い妹を連れ空襲を逃げ惑うなど「出口のない海」や「火垂るの墓」を思い浮かべてしまう。中でも印象深かったのはやはり東京大空襲、3月10日のリアルな描写。戦争の悲劇がひしひしと伝わってくる…。戦争ものはただただ切ない気持ちにさせられるが、こうして平和な時代に生きているということ、美味しいものを当たり前のように食べているということ、あらためて色々な幸せを感じとらなくてはならないと思った…。2016/03/04
keith
30
人間魚雷「回天」の乗組員として出撃を待つ特攻隊員の兄。東京大空襲で父母を、疎開先で妹を亡くした弟。出征しても地獄、残っていても地獄。二人の書簡と兄の日記を通して戦争の不条理が伝わってきました。2016/05/02
みかりん
7
回天特攻隊員として出撃を待つ兄善一郎。学童疎開しながら、東京大空襲の戦果で父と母を亡くし、妹も失う弟昭二の兄弟の物語。戦争の話は読んでて本当に苦しくなります。絶対に繰り返しては行けない。今もウクライナとロシアの戦争が一番身近にありますが、戦争では何も解決できない。人間は言葉を話せる唯一の動物。それを良く考えなければいけない。2022/06/25
やまさん
6
人間魚雷と称される「回天」。海軍によって太平洋戦争末期になって開発された特攻兵器ですが、いったいどれだけの戦果があったのでしょうか?本書に描かれた「死」を覚悟した隊員たちの葛藤と「外道の統率」といわれる指揮官の精神状態はいかほどだったのか?当時の若者が自らの命を差し出し「祖国の未来のため」と信じ散っていった事実。彼らが願ったのは現在の日本の姿なのでしょうか?確かに一度は繁栄しましたがそれは経済における貸借対照表上のこと。はたして今の日本に白洲次郎氏のいう「プリンシプル、信義」はあるのかな?2018/05/07
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